対象とする物質に効率的に力を伝えることができれば、筋肉に余計な力が入らずにすみます。
これは、骨の垂直抗力を利用できるためです。
垂直抗力とは、物質にかかる重力(重さ)に抵抗して支える力のことです。
この力のことを、運動学では「床反力」といい、物理学では「垂直抗力」という「弾性力」の一種です。
私たちは、何気に生活していますが、地球上のすべての場所に重力がかかっています。
なので、物質は高いところから低いところへ落ちます。
同じ物質でも液体は重力に従い形を変えますが、固体は形を変えません。
これは、液体の垂直抗力が弱く、固体の垂直抗力が強いからです。
人の身体は約6~7割は水で構成されていますが、それでも形を変えずにいられるは固い骨で体を支えているためです。
人の骨は206本あると言われ、骨と骨とは滑らかな関節によって接続されています。
人の関節はとても滑らかで、現在の科学技術を以てしても、同じ性能の関節を作れないと言われています。
人が立ったり歩いたり、滞りなく動けられるのは、滑らかな関節のおかげです。
それがゆえに、関節がぐらつかないように筋肉で関節をロックして体を安定させようと無意識のうちに必要以上に力を入れようとしてしまいます。
このことが、過緊張の原因の一つです。
脱力トレーニングを行うことで、この滑らかな関節を有効利用することができるようになります。
そうすると、全身の骨を巧みにコントロールできるようになり、対象とする物質に骨の垂直抗力を有効に伝えることができるようになります。
集中しながら視野が広がる。
いっけん真逆のことのように思われるかもしれません。
本来、人の脳には、いくつもの情報を同時並行で処理する能力が備わっています。
ですが、その反面、複数のことを同時に行うことが、とても苦手です。
なので、1つのことに集中して取り組んだ方が良いのは、そのためです。
例えば、2つのことを同時に行う必要があるとすれば、そのうちの1つをオートマチック(自動的)に身体を動かせるように脳にプログラム(記憶)する必要があります。
日常生活で行われてる動作のほとんどが、オートマチック化されています。
なので、意識が分散しがちになり、物事に集中することが難しいです。
オートマチックはとても便利ですが、マニュアル制御ができなくなるため細かやかなコントロールができなくなります。
オートマチックで動かすために脳にインプットされた情報が、筋肉に待機信号として送られ続けていると考えられます。
そうだとしたら、脳は出力に力が注がれて、五感などの入力情報が入らない状態になっていることになります。
このことが、過緊張を引き起こしていると考えられます。
脱力トレーニングを行っていくと、筋肉の出力が抑えられ、入力情報が入りやすくなります。
このことで、筋肉に送り続けていた脳からの送信信号を減らすことができ、過緊張が改善されます。
そうなると、感覚器からの入力情報(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚)をキャッチしやすくなり、まわりの情報を収集して処理する能力が高まります。
さらに、脳からの出力が少なくなれば意識が分散しにくくなり、物事に集中できるようになります。
脳神経系のネットワークが良くなり「物事に集中しながら、視野が広がる」ようになります。
精神が安定するためには、内臓の働きが良くする必要があります。
日常生活において脱力動作を行うことはそこまで難しくありませんが、
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意識して力を出したい時
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本番で失敗が許されない時
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スポーツなど非日常的な動作を行おうとする時
など、意図的に力を発揮したい時に限って、身体が言うこと効かなくなり、必要以上に力を入れてしまいます。
これは、過度なストレスによって交感神経が過剰に働き、内臓の働きが弱くなるからです。
そうなると、精神的にネガティブになり、恐怖や不安、もしくは怒りと言った本能に苛まれてしまいます。
しかし、人の身体は本能に任せていては、うまく作動しません。
本能による身体動作システムは四足歩行のものだからです。
二足歩行になっているのに、四足歩行のシステムが稼働してしまうと、筋肉が過緊張(ブレーキをかけながらアクセルを吹かす)状態になります。
そうなると身体をコントロールできなくなり、歩くことはおろか立つことも難しくなります。
残念ながら、我々の身体には四足歩行の身体動作システムがまだ残っています。
脱力トレーニングを行うことで、内臓の働きが活性化されます。
このことで、交感神経の働きが抑えられて副交感神経が活発に働き、過緊張が改善されます。
緊張を強いる状態でも内臓の働きが保たれるようになり、精神の安定を図ることができるようになります。