東洋思想の五臓六腑は器質的な臓器のことではなく臓器の働きであると「臍下丹田の位置」の投稿で書きました。
このように考えると、丹田も下腹部周囲の器官の働きのことだと言えます。
『丹田の誤解』では、表層の腹筋(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋)を働かせることが丹田という風に誤解されがちなのに対して、深層の腹横筋が収縮する感覚が丹田の正体だと書きました。
なぜかと言いますと、深層の腹筋である腹横筋の働きは認識されにくいために腹部を意識すると表層の腹筋(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋)が優先的に働いてしまい、姿勢が崩れることで内臓の働きが悪くなり、自律神経のバランスが崩れ、丹田の効果である精神の安定、肝がすわるなどの効果が表れないからです。
「腹横筋の収縮する感覚」は丹田の一部であり、実際には腹横筋ばかりではありません。
腹横筋の感覚はもちろん、下腹部内部にある腸や股関節、股関節を動かす筋肉(腸腰筋、おしりの筋肉、大腿部の筋肉)骨盤周りの筋肉(背筋や表層の腹筋)、仙骨の中にある体の重心点のコントロールなどを連動して働かせるための身体システムの働きが丹田であり、この感覚意識が丹田の正体だと考えられます。
ただ、腸など内臓の働きを感じる感覚意識については内臓の働きを認識する感覚器が発見されていないため、解剖生理学的には体性感覚には内臓の感覚は含まれておらず、腸などの内臓の働きを感じることができないことになっています。
これに対して腹横筋は骨格筋(随意筋)の一つですので、体性感覚の意識が高まれば感じ取ることができるため、丹田の感覚の正体は「腹横筋の収縮する感覚意識」としていたほうが無難です。
ですが、内臓を取り巻く末梢神経のことについてはかなりの部分で不明な所が多く、もしかしたら内臓の働きを感じることもできるようになるのではないかというのが、現段階の個人的な見解です。
このように考えたら、丹田という感覚意識には幾層の階層があると言えます。
例えば、腹横筋の収縮感覚の段階、股関節の動く感覚や腸腰筋の収縮感覚の段階、そして腸などの内臓が働く感覚の段階と言った具合に、感覚意識が高まれば骨盤と下腹部周囲にあらゆる感覚を段階を踏みながら認識することができるようになると考えられます。
ですが、感覚意識が高まると丹田だけを感じるのではなく、体や体の外の感覚を広く感じ取れるようになります。
例えば、重力と骨に伝わる垂直抗力であったり、垂直抗力に沿って認識される生命エネルギー(気)の 感覚意識(武術では正中線、クラッシックバレーではセンター、大田式では身体軸)や、身体中の手や足の骨格や筋肉、内臓の働きなどもです。
しかし、巷では「私は丹田系、あなたは正中線・センター系」などというように、丹田と正中線とは相対するする関係のように言われています。
もちろん、人によって丹田の意識が優位に働くとか正中線の意識が優位に働くということはあるのだと思いますが、だから丹田しかないとか正中線しかないというわけではありません。
本来は、丹田も正中線もお互いが高め合うことで双方の働きが生かされるのです。
感覚意識は高まれば高まるほど広い範囲を認識できるようになるので、丹田を感じながら正中線を感じるということは当たり前にできるようになります。
ですが、世間で言われているように丹田を作るとか丹田を練ると言った言葉によって一生懸命に丹田だけを作ろうとすると残念なことに、お腹の表面の筋肉に力が入ってしまうだけで、肝腎の丹田は作られません。
なぜならば、身体の一部分を強く意識してしまうと表層筋が優位に働くことで力みが生じて身体のバランスが崩れてしまうからです。
そうすると、先ほども言ったように姿勢が崩れ、腹部の緊張し続けることで交感神経が優位に働きかえって内臓の働きが弱くなってしまいます。
同じように、正中線を一生懸命に作ろうとすると背骨周りの表層の筋肉(脊柱起立筋や広背筋など)が働き背骨をロックしてしまい正中線の特徴である脱力した動作や高度な姿勢制御能力(バランス感覚)がなくなってしまいます。
なぜならば、正中線の正体が、姿勢を制御している背骨の動きを感じる感覚意識だからです。
これらのケースは、丹田や正中線があると言われる場所に意識を強めて意図的に(目的意識をもって)丹田や正中線を作ろうとするために起こっています。
もしかしたら、多くの人がこのように誤解して可能性を潰してしまっているのかもしれません。
大田式調整動作では、丹田や正中線を感覚意識として認識して身体機能を高める脱力トレーニングを行なっております。