意識して声を出そうとする時、「おなかから声を出して」と言われます。
しかし、体の構造上、おなかから声を出すことはできません。
なぜ、「おなかから声を出す」というのでしょう?
人は息を出すことで声を出すことができます。
なので、「息を出す=声を出す」という構図になっているのだと思います。
「声を出す=息を出す」という関係からなのか、腹式呼吸が重要視されています。
しかし、腹式呼吸にはデメリットがあります。
それは、息の勢いが強くなることで声がぶれやすくなることです。
腹式呼吸によって出された空気は腹筋によって押しだされるため、勢いが強く、その風圧によって声帯が絞まりにくくなります。
その結果、声がぶれてしまうのです。
そもそも、息を出す動作と声を出す動作とでは身体運動的に異なった部分があります。
その中で最も異なるのが、声帯の動きです。
息を出す時、声帯は広がっています。
それに対して、声を出す時、声帯は締まります。
声帯が締まることによって声帯を通る空気の流れが速くなり、このことで声帯が振動して音が作られるためです。
ですが、息が声帯を通過しただけでは声にはなりません。
声にするために、別の動作が必要となります。
それは、あごと舌との連動した運動です。
あごと舌とが連動して動くことで、はじめて声を出すことができるのです。
声を出す動作にとって最も重要となるのは、あごと舌の動き。
もちろん、声を出すことにとって呼吸はとても大切なことです。
ですが、呼吸と声を直接的に結びつけようとしたら、それは落とし穴です。
人は何か行動を起こそうとする時、意識を集中させて行動します。
もし呼吸に意識を向けながら声を出すそうとすれば、呼吸と声とに意識が分散されてしまいます。
これは、声を出すことにも、息を出すことにも意識を集中するできていないということです。
なので、声を出すトレーニングを行なう時には「呼吸を意識しない」ようにアドバイスしています。
「声を出す=息を出す」ことではありません。
声を出すことに工夫を重ねることが「響く声」を奏でる秘訣なのです。