丹田という言葉が一般に知られるようになりましたが、私が呼吸法を始めた約20年前は「丹田?なんですか?それ?」という有様でした。
その間、ひっそりと呼吸法を行ってきましたが、約10年前ぐらいから一般的に知られるようになり肩身の狭い思いをせずにすむようになりました。
ですが、この丹田、ちょっと誤解されやすい代物です。
一説では、上丹田、中丹田、下丹田の3つあると言われています。
その中の下丹田が一般的に言われている丹田で、下腹部の辺りにあると言われています。
上丹田は額のあたりにあると言われ、中丹田は胸骨(心臓)のあたりにあると言われています。
そもそも丹田とは、丹(薬)を作り出す田んぼ(場所)という意味です。
その丹田が、頭と胸、骨盤のあたりにあると言われています。
上丹田は頭蓋骨、中丹田は胸郭、下丹田は骨盤のあたりです。
身体の感覚器官は頭に集まり、胸郭が腕の中心にあり、骨盤が脚の中心にあります。
ですので、体の構造の観点から言って人の体の核(コア)になる骨のまわりを指しています。
このように考えますと、骨格構造に基づいた動作を行う上で重要な場所とも言えます。
上丹田と中丹田はあまり知られていませんので問題はありません。
ですが、下丹田はよく知られるようになって、そのためか下丹田について誤解が広まっているように感じます。
それは、どのような誤解かと言いますと、丹田を作るとか丹田を意識するという言い方をして腹筋に力を入れるという誤解です。
「腹筋=丹田」ではありません。
もちろん、人の動作は筋肉の収縮によって行われるので丹田を意識して動作を行うことで何らかしらの筋肉の収縮が起こります。
ですが、丹田によって生じる筋肉の収縮と自覚できる腹筋の収縮とは異なります。
自覚できる腹筋は、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋などです。
それに対して丹田によって生じる筋肉の収縮は、腹横筋という腹筋の中でも一番深層にある筋肉で自身でコントロールできない筋肉です。
ですので、腹筋に力を入れても丹田に関わる腹横筋が使われません。
逆に腹筋の力を抜かなければいけないのです。
本来は、体の力以外の特殊な感覚というのが丹田の感覚です。
ですが、肝腎な特殊な感覚は知られないまま言葉が流行ったためか、丹田=腹筋という構図がひとり歩きしたように思います。
そのような知識がなければ、下腹部を意識した時点でおなかに力を入れてしまっても当然だと思います。
では、どうしておなかに力を入れてはいけないのでしょう?
おなかに力が入ると表面の腹筋に力が入ってしまい肝腎の深部の腹筋であります腹横筋が収縮しないからです。
普段意識できない腹横筋の感覚が丹田の感覚の正体なのです。
ですので、表面の腹筋に力を入れた時点で丹田の感覚が消えてしまいます。
そして、表面の腹筋に力が入ってしまうと姿勢が悪くなります。
腹横筋には体幹部を支える働きがありますが、姿勢が悪くなると腹横筋で体を支えられなくなります。
そのようになると骨で体を支えられなくなり、体が重力に押し潰されてしまいます。
このことで、体が緊張しやすくなります。
丹田には、精神の安定させ心を落ち着かせる作用があります。
ですが、腹筋に力が入ってしまう結果、体が緊張してしまうと交感神経が優位に働き、心も同時に緊張してしまいます。
特に精神的に緊張する場面に立った時には、普段の体のくせが強く出てしまいます。
そのような時に腹筋を緊張させる癖をつけていると、体の緊張が強くなります。
ですので、腹筋に力を入れる癖をつけないようにすることが必要なのです。