解剖学では、
- ももの前の筋肉は脚を伸ばす筋肉(伸筋)
- ももの後ろの筋肉は脚を曲げる筋肉(屈筋)
と言われています。
歩くときに体を前に運ぶのが、ももの後ろにあるハムストリングスという筋肉です。
ここで、解剖学を知っている人は「?」と思われるかたもいるかもしれません。
ももの後ろの筋肉は膝を曲げる筋肉なのに、「なんで歩くときに使われるのだろう?」と。
それは、ハムストリングスという筋肉が膝を曲げる筋肉であると同時に、ももを後ろに動かす筋肉(股関節を伸展)だからです。
このハムストリングスは、膝の関節と股関節とをまたぐ筋肉(二関節筋)ですので、膝と股関節を同時に動かすことができます。
そして、歩行においてハムストリングスは膝を後ろに伸ばした時にもっとも強く働くのです。
また、膝を後ろに伸ばした時、ももの前の筋肉も同時に働きます。
解剖学を良く知っている方は?と思うかもしれません。
「ももの前の筋肉(大腿四頭筋)とももの後ろの筋肉(ハムストリングス)とは拮抗筋なのでは?」と。
確かに、大腿四頭筋とハムストリングスは解剖学では拮抗筋といわれています。
ですが、大腿四頭筋とハムストリングス、それぞれに2関節筋が着いていますので、どちらも膝関節と股関節を同時に動かすことができます。
解剖学では膝の関節を曲げる4種類の筋肉をひとまとめにハムストリングスと言います。
それに対して膝を伸ばす4種類の筋肉をひとまとめに大腿四頭筋と言います。
ですが、実際の動作では、ハムストリングスも大腿四頭筋も、それら4つの筋肉はそれぞれ役割が異なります。
このように考え、ハムストリングスの働きを機能ごとに分解して考えると、膝を曲げる主な筋肉は大腿二頭筋の短頭です。
そして、股関節を伸展し膝を伸ばす筋肉は大腿二頭筋の長頭と半腱様筋、半膜様筋の3つの筋肉が二関節筋です。
また、膝を伸ばす大腿四頭筋にも4種類の筋肉があり、膝を伸ばす主な筋肉が中間広筋と外側広筋、内側広筋の3つの筋肉です。
そして、ももを前に動かすのが大腿直筋で二関節筋です。
このように、解剖学的に同じ働きをするからといっても、実際の動作ではそれぞれ別の役割を果たすケースは多くあります。
ですので、解剖学的にひとまとめにされた筋肉を機能ごとに分解して考える必要があると考えました。
そこで、膝の曲げ伸ばしに関わる筋肉とももを前後に動かす筋肉とで以下のように分類しました。
膝関節
- 伸ばす筋肉(伸展):中間広筋・外側広筋・内側広筋
- 曲げる筋肉(屈曲):大腿二頭筋短頭
股関節
- 前に動かす筋肉(伸展):大腿直筋
-
後ろに動かす筋肉(屈曲):大腿二頭筋の長頭・半腱様筋・半膜様筋
このように、解剖学的な関節の動きと実際の関節の動きとで筋肉の働きが異なるのは、一つの動作を行う時に一つの筋肉ではなく幾種類の筋肉が連動して動くからです。
また、解剖学的に解釈された関節の運動は、重力の働きを考慮に入れていないという問題もあります。
実際の動作は立った状態で行われることが多く、関節を動かす骨のテコの支点が解剖学的位置と異なってきます。
ですので、解剖学的に解釈された関節の運動では実際の運動には対応できないのです。