武術(特に合気道)や自己啓発セミナーなどで行われる「折れない腕」というパフォーマンスがあります。
普通に考えると、このように相手から腕を曲げようとしたら「自分の力よりも相手の力のほうが方が強いのでは!」と思ってしまいますし、実際に相手から肘を曲げられると簡単に曲げられてしまいます。
伸ばした腕を「ポジティブなことをイメージする」とか、「気が出ているとイメージする」と、不思議なことに相手の人が腕を曲げようとしてもビクともしなくなくなるというのが「折れない腕」というパフォーマンスです。
いっけん不思議なことですが、運動学的に説明できる現象なのです。
「折れない腕」正体は、上腕三頭筋という腕を伸ばす筋肉を有効に働らせることで生じる現象です。
そして、この動作は、誰にでも行うことのできる動作なのです。
ですが、「折れない腕」のように相手に腕を曲げられるということは非日常的な状況で脳が「特別な動作」と認識します。
ですので、外から力を入れて腕を曲げられると「曲げられないように」と無意識のうちに腕を伸ばす筋肉と腕を曲げる筋肉(上腕二頭筋)を一緒に縮ませてしまいます。
そうなると、「相手が腕を曲げる力」と「自身の腕を曲げる筋肉の力」が一緒に働いてしまい「一生懸命、力を入れているのに簡単に曲げられてしまう」という結果になってしまうのです。
そこで、「腕から気が出ることをイメージする」というような自己暗示をかけると曲げられる腕に意識が向かなくなり脱力して腕を伸ばせるようになります。
この時、腕を伸ばす筋肉(上腕三頭筋)が働き、腕を曲げる筋肉(上腕二頭筋)は緩んでいます。
このことによって、腕を伸ばす上腕三頭筋が効率よく働くようになり、相手がいくら曲げようとしても曲げられなくなるというのが「折れない腕」のメカニズムなのです。
なので、気の力やポジティブな気持ちで腕が曲げられなくなるというものではありません。
「気が出れば曲がらない」とか「ポジティブになれば曲がらない」というのは、原理を知らない人を納得させるための手段として行なわれているのでしょう。
本当は自然に行われている運動でも状況が変わることで「特別な運動」と脳は認識してしまいます。
自己啓発セミナーなどでは、その脳の誤認を利用しているのだと思います。
なので、原理が理解できれば自己暗示をかけなくても、すぐにできるようになります。
なぜならば、普段の生活で重い物を押そうとする時に自然と「折れない腕」を使っているからです。
その時、意識は腕にはなく、押そうとするものに向かっています。
ですので、腕を伸ばす延長線上に意識を向けることで、自然に腕を曲げる筋肉の緊張が解けて腕を伸ばす筋肉が効率よく働くようになります。
これが、身体動作における意識の向け方なのです。