欲という言葉には、あまりいいイメージがないかもしれません。
ですが、欲がなければ人は生きていけません。
なぜならば、欲こそが、生きるために必要な活力となるからです。
マズローは、「自己実現理論」の中で、欲求には5段階の欲求があると言っています。
マズロー「自己実現理論」wikipedia参照
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生理的欲求は、食欲など、生命活動に必要な欲求です。
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安全の欲求は、外敵からの身を守るための欲求です。
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社会的欲求/所属と愛の欲求は、愛されたい、集団に属したいという欲求です。
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承認(承認)の欲求は、人に認めてもらいたいという欲求です。
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自己実現の欲求は、夢や理想を実現したいという欲求です。
ただ、この自己実現理論には賛否あるようです。
脳の構造から考えると、生理的欲求は脳幹由来の欲求、安全の欲求は大脳辺縁系由来の欲求、それよりも上の欲求は大脳皮質由来の欲求だと解釈できます。
ですが、欲求が生じるプロセスは、脳幹、大脳辺縁系、大脳皮質、それらの器官の共同作業によるものだと考えられます。
このように五段階の欲求を見ていくと、
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生理的欲求は、食べるものがないと生きていけないから食べ物を探すためのもの。
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安全の欲求は、外敵から身を守るために安全な場所を探そうとするためのもの。
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社会的欲求は、社会に属することで1番目の安全の欲求、2番目の安全の欲求が満たされます。そのために、社会に属したいとするもの。
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承認の欲求は、グループでの地位を築くことで社会の中で認めてもらい、そのグループからはみ出されにくくするためもの。
と考えられ、2番目の安心の欲求、3番目の社会的欲求、4番目の承認の欲求のいずれの欲求も生命活動を維持しようとすることが根底にあります。
そのように考えると、それらの欲求は、生きようとする衝動だと言えます。
ですが、5番目の自己実現の欲求は、生命活動を維持とは結びつかない欲求です。
ですので、自己実現の欲求は、1~4番目の欲求を超えた所にあり、1~4番目の欲求が満たされてはじめて生じる欲求だとマズローは考えたのかもしれません。
このように考えると、1~4番目の欲求はネガティブな欲求、5番目の欲求だけがポジティブな欲求という印象があります。
ですが、脳によって欲求が生み出されるプロセスから考えると、1~5番目のすべての欲求は誰にでも存在すると考えたほうが自然です。
ただ、それは、人によって、時と場合によって、それらの欲求のパーセンテージが違うだけで、それらの欲求に、ネガティブもポジティブもありません。
マズローの自己実現の欲求は、未来を実現させるための欲求だとイメージされますが、その時間軸が過去に向けられると、どうでしょう?
例えば、「過去に起こったことを取り消したい」とか、「過去に帰ってやり直したい」とか、「過去に戻りたい」ということを実現したいと思うのも欲求です。
このようなことは、誰にでもあるのではないでしょうか?
過去に帰りたいとする欲求は、未来に焦点が向けられる「自己実現の欲求」とはまったく異なるように思われるかもしれませんが、そのような欲求も生命維持とは関係のない欲求という点では共通しています。
マズローの自己実現の欲求は「今の自分を変えたい」という未来の自分に対しての欲求ですので、前向きで建設的なポジティブな欲求で、マズローも、その段階にある人は少ないと言っています。
ですが、「過去の出来事をリセットしたい」とか「過去に戻りたい」と思っている人は多いと思います。
それは、「過去の自分を変えたい」と思う過去の自分に対しての欲求ですので、ネガティブな欲求になりますが、このような過去に向けられる欲求も自己実現の欲求だと考えれば、誰もが持っている欲求だと言えます。
ただ、未来を変えることができたとしても、過去は絶対に変えることなどできません。
なぜならば、時間は過去から未来へと不可逆的に流れているからです。
過去に帰りたいと思うことは、過去に戻って変えたいと思う欲求です。
過去を変える方に欲求を向けても、過去は変えることができないので、欲求を満たすことなどできません。
実現不可能な欲求は、永遠に満たされることなく、そこに残るのは欲求不満だけです。
変えられないものも変えようとするから、人は悩み苦しむのです。
それも、人の人たる所以なのでしょう。
ですが、人には未来を創造する力があります。
なので、実現不可能な過去にフォーカスするのではなく、実現可能な未来にフォーカスして行動することが精神を解放するために必要だと思うのです。