過去の出来事は脳に記憶させていると言って否定する人はいないと思います。
ですが、ほんとにそうなのでしょうか?
確かに、脳に障害を起こしてしまうと過去に記憶した動作を行えなくなります。
なので、記憶という情報が脳に蓄積させているのは事実です。
けれど、過去の怖い経験を思い出した時など、心臓がどきどきしたり、緊張した場面に遭遇したことを思い出して体に震えを感じたりした経験があるのではないでしょうか?
それは、過去の出来事を思い出すことで、その出来事ばかりではなく、その時の心情、心臓や筋肉の反応も記憶させているからだと考えられます。
このように考えると、過去の出来事は脳に記憶されるばかりではなく、筋肉や内臓にも記憶されていることになります。
心臓は、心情に敏感に反応するので理解していただきやすいと思うのですが、心臓以外の臓器も過去の出来事を記憶しているのではと考えるのです。
例えば、強くストレスがかかって胃が痛くなった経験などを思い出すと、胃のあたりに違和感が表れると思います。
心臓ほどではありませんが、胃も心情に強く反応する臓器です。
心情に表れにくい肝臓や腎臓も心臓や胃のように、その状況下で反応していますので、それらの臓器にも過去の出来事が記憶させていると考えられます。
西原克成著「内臓が生みだす心」(NHKブックス)の中で引用された『記憶する心臓』(クレア・シルビアとウィリアム・ノヴァック著、飛田野裕子訳、角川書店)よりを引用します。
人間の感情は、ニューロペプチドがレセプターに取りついてニューロンの電気的変化を促進させることによって生じるというのが、パートの説だ。
ペプチドが脳内に存在していることはよく知られているが、パートと仲間の研究者たちは、それが心臓を含めて全身に散らばっていることを発見した。胃にもニューロペプチドが存在していると聞いて、わたしは“腹にすえかねる”とか“腹の虫がおさまらない”という表現が、改めて納得できた気がする。(同書、第十八章)
このように、人の心情を促すニューロペプチドという物質が脳内ばかりではなく、心臓を含む全身に散らばっていると考えられると、内臓にも筋肉にも記憶が刻まれていても不思議ではありません。
そのような考えは、東洋医学もあり、陰陽五行説と言います。
その中の五臓六腑は、現代医学でいうところの内臓にあたります。
ですが、五臓六腑は内臓の働きを表しているもので、感情・行動・皮膚や筋肉などの働きが臓腑と対応していると考えられています。
例えば、怒り過ぎると肝を痛め、喜びすぎると心を痛め、思いすぎると脾(消化器系)を痛め、悲しすぎると肺を痛め、恐れすぎると腎を痛めると言われています。
このように、感情によってダメージが与えられる臓腑が異なると東洋医学では言われています。
そして、それらの臓腑が皮膚や筋肉の働きにも関わっているとも言われ、それを経絡といいます。
よく、ツボという言葉を聞くと思いますが、ツボは正式には経穴といい経絡上に表れる治療点のことです。
経絡に刺激を与えることで内臓の働きを整える治療法が鍼灸などです。
もしかしたら経絡というのは、内臓や筋肉に刻まれた過去の記憶なのかもしれません。
もし、そうだとすれば筋肉を緩めることで内臓に蓄積された記憶が解放され、そのことで心のこわばりを解放することもできることになります。
過去の心情が内臓や筋肉にも記憶されていると考えれば、心の問題を心だけで解決することがいかに難しいことなのかを理解できると思います。
心の問題は体からアプローチしたほうが効果的なのは、そのためです。
セルフ調整法「大田式調整動作®」は、このような心身相関の考えを元に考案しました。
こわばった筋肉をゆるめることで、筋肉が自然と伸びやすくなります。
筋肉が適度に伸ばさせると、心が解放されやすくなります。
自分自身で身体のバランスを整えることができるようになれば、自分自身で心身のこわばりを解放することもできるようになります。
そのことが自信につながり、気持ちが前向きになり、体の芯から元気になっていきます。