武術系の技法に「膝抜き」というのがあります。
居付かない、予備動作のない動きに必須だと言われています。
私の個人的な見解では「膝抜き」は予備動作であると考えています。
「膝抜き」は武術の動きというよりも、スポーツで用いられるフットワークとは異なる技法として考え出されたものでしょう。
一見すると予備動作を行わなくても動き出せるように見えます。
なぜかと言いますと、スポーツのフットワークのような予備動作が行われないからです。
しかし、動き出す前に「膝を抜く」ことに意識する時点で予備動作だと思うのです。
実際問題、相手を前にして動き出す前に体の動きに意識を向けていたのでは、相手に対する意識がなくなり、相手の動きに臨機応変に対応できなくなります。
特に、コンタクトスポーツや格闘技などのように一瞬の判断が必要な競技では、動作への意識は死活問題です。
武術の動きを取り入れようとして失敗する人の多くは、対戦相手と相対しているにも関わらず身体操作への意識が優先され、相手への意識が薄くなるからでしょう。
相手と相対している時に、
- 身体操作に意識が向く
こと自体が、身体の動きを止めてしまう「予備動作」であるとを自覚しなければなりません。
これが、武術系の技法の罠です。
その理由について、くわしく述べていきたいと思います。
膝抜きとは
ここで、膝抜きについて説明したいと思います。
スポーツで行われているフットワークは、
- ジャンプする
- 片方の足に体重をかける
- 上体をふる
などの予備動作を行なってから動きはじめます。
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そのことで、初速を早めることができます。
ですが、動き始めるタイミングをはかられ、動きを封じられやすくなります。
そのため、フェイントを巧みに活用することで相手の動きを止めたりする技法などが行われます。
そういった中、今(2021年)から20年近く前に武術の動きの中で行われると言われている「居つかない(予備動作のない)動き」が話題になりました。
そのあたりからでしょうか。
「膝抜き」という言葉が使われはじめたのが。
スポーツや武術などでは、中腰で構えてから動くことが多いです。
その時、膝を曲がっていることで膝がロックされています。
ここで述べた予備動作とは、膝のロックを解除して足を動かしやすくするためのものでした。
それとは逆に「膝抜き」は、予備動作を行わずに膝にかかった力を抜いて足を動かしやすくするための技法です。
膝抜きには、斜めに構えた状態の時
- 前に出している方の膝の力を抜いて、その足をそのまま前に出す
- 後ろに留めた方の膝の力を抜いて、その足をクロスさせるように前の方に送る
2通りの方法があると言われています。
ですが「膝抜き」には大きな問題点があります。
「膝抜き」の問題点
一見すると「膝抜き」は予備動作を行なっていないように見えますが、そうではありません。
「膝抜き」をはじめとする脱力動作を謳う手法の多くは、ブレーキになっている筋肉を意識的に抜くことで動作しようとします。
そこに、致命的な欠陥があります。
確かに、力を抜く時には筋肉が働かないので、表立った予備動作は生じません。
ですが、筋肉に力を抜くように指令を出している時、一瞬、動きが止まってしまいます。
この理由は、動く時に「筋肉を弛緩」というプログラムを組み入れると、動く時に「筋肉を収縮」させるという元来あるシステムとを同時に働かすことになり、体を動かすための手続きが煩雑になるからです。
これこそが、武術が忌み嫌う「居付く」という状態です。
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人が動作を行う際に筋肉が働くことが前提で作られています。
身体動作の原理に逆らう動きになり、咄嗟(とっさ)の動作には向かず、現実的ではありません。
これが「膝抜き」の問題点です。
脱力動作の誤解「膝抜き」本当の意味
それ以前に、相手と相対している時に身体操作に意識を向けること自体がナンセンスです。
相対している時には、意識は相手に向けていなければなりません。
でなければ、相手にされるがままです。
例えば、格闘家が武術の「気配を消した突き」のような技を習得して試合で使おうとします。
そうなった時、対戦相手の攻撃をまともに喰らってしまいます。
「気配を消す」ための身体操作に意識が向き、相手が「どのように攻撃しようとしているのか?」ということに意識を向けていません。
この時、一瞬、棒立ち状態になります。
対して対戦相手は、その隙を見逃さず、すかさず攻撃を当ててきます。
当たり前です。
では、脱力動作を実際の動作に活用するため必要なことは?
立っている時、すなわち、待機している時から脱力を心掛けることです。
脱力体を作る上で、「膝の力を抜く」ことは、とても重要です。
ですが、動く瞬間に「膝を抜く」という意味ではありません。
膝の関節をニュートラルな状態にしておくということです。
これは、膝だけではなく、股関節、肩甲骨などの全身の関節も同じです。
ニュートラルな状態をキープしていれば、相手の咄嗟の動きにも即座に対応することも可能になります。
- ニュートラルな状態を作る
これが、脱力クリエイトの考える「脱力トレーニング」です。