人は、重力に逆らうことで姿勢を維持しています。
その力を垂直抗力といいます。
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これは、重力に対して地面が押し返す力のことで、運動学では床反力(地面の反発力)と言います。
体重よりも床反力が強い状態を荷重といい、体重よりも床反力が弱い状態を抜重といいます。
例えば、アナログ(針の付いた)体重計に乗って、膝を屈伸すると
- 膝を曲げてしゃがむ時、体重計の針が小さく
- 曲げた膝を伸ばそうとする時、体重計の針が大きく
- 膝が伸びきった時、体重計の針が小さく
なります。
この時、体重計の針が大きくなる(2.)の時が、荷重です。
これは、体重に地面を蹴り出す力が加わり床反力が強くなるためです。
それに対して、体重計の針が小さくなる(1.と3.)の時が抜重です。
1. の時
3.の時
これは、体が浮き上がることで床反力が弱くなるためです。
歩行と抜重と荷重
このような、荷重と抜重を歩行に利用すればいいのでは?という意見もありますが、意識して抜重を行う必要はありません。
なぜかと言いますと、歩くという動作は、常に荷重と抜重とが伴っているからです。
具体的に言うと、
- 浮かせている足(遊脚)は抜重(体重は0)
- 地面についている足(立脚)は荷重(体重+推進力)
になり、抜重と荷重が同時に起きているのが歩行です。
なので、片方を抜重させようとすると必然的にもう片一方は荷重される訳です。
このような動作を、無意識のうちに行なうことで円滑に動くことができます。
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ですが、中腰での動きが必要になるスポーツなどでは、そうはいきません。
中腰の時、常に膝が曲げています。
膝を曲げることで脚の力を出しやすくするためです。
その反面、膝の関節がロックされ、荷重のかかった状態になってしまいます。
膝のロックを解くために、片足は体重がかからない状態、すなわち抜重の状態にしなければならなくなります。
そのロックを解除するために行うのが、予備動作です。
【関連記事】武術が予備動作を嫌う訳
ですが、予備動作を行ってしまうと相手に動きを悟られてしまうという欠点があります。
それに対応するために、膝を曲げる抜重を使ったフットワークを「膝抜き」と呼び推奨している人もいますが、フットワークに抜重を使うことはナンセンスです。
【関連記事】「膝抜き」という予備動作(武術系身体操作の罠)
これは、武術で使われる抜重と荷重を利用して相手に攻撃を加えるための技法であり、フットワーク法ではないからです。
では、抜重と荷重を使った動作とは?
抜重と荷重を使った身体動作
腕を速く動かす動作や腕の力を大きくするための動作には、抜重と荷重が利用されています。
この原理について、説明したいと思います。
ここで、
- 荷重の時、体は一瞬止まり
- 抜重の時、体は浮き上がる
ということになります。
ということは、
荷重の時、
- 体が重くなり、動かしにくくなる
抜重の時、
- 体が軽くなり、動かしやすくなる
ということになります。
そこで、床反力が弱くなる(体重計の針が小さくなる)
- 膝を曲げた瞬間
- 膝が伸びる瞬間
抜重の時に動作を行えば良いという考えになりそうですが、そうではありません。
運動連鎖を行う過程で、抜重と荷重とが交互に使われます。
なので、荷重がなければ抜重にはなりませんし、抜重がなければ荷重にはなりません。
抜重と荷重を利用した運動連鎖には
- 膝の曲げ伸ばしによる運動連鎖
- 身を沈め膝を曲げる運動連鎖
- 体重の移動を利用した運動連鎖
の3通りあります。
《膝の曲げ伸ばしによる運動連鎖》
しゃがんで膝を伸ばす運動連鎖の運動は、
- まず抜重状態にすることで体を降下させ、
- 膝に力を加えて降下を止めて荷重状態にすることで床反力を高め
- 床反力の反発力を利用して体を浮き上がらせて(抜重)から腕を動かす
という一連の流れの中で、脚〜腰〜背中〜腕の順に力を連動させる運動連鎖を起こします。
これらは、テニスのサーブやバレーボールのアタックなどで用いられます。
《身を沈め膝の曲げる運動連鎖》
膝を曲げる運動連鎖の運動は、
- まず体を降下させる(抜重)と同時に腕を動かし
- 膝に力を加えて降下を止めて荷重状態にして床反力を高める
という一連の流れの中で、脚〜腰〜背中〜腕の順に力を連動させる運動連鎖を起こします。
これらは、武術などで用いられます。
《体重の移動を利用した運動連鎖》
左右の足に体重を移動させる運動連鎖の運動もあり、
- まず、テイクバック(後ろに引く)で後方の足に体重が乗る。
- スイングを行うと同時に後方の足に荷重がかかり床反力が高まる。
- 前方の足に体重が乗り、後方の足が抜重してスイングを加速させる。
という一連の流れの中で、脚〜腰〜背中〜腕の順に力を連動させる運動連鎖を起こします。
これは、膝を伸ばす運動連鎖と膝を曲げる運動連鎖の中間にあたり、格闘技のパンチやゴルフや野球、テニスなどのスイングなどで用いられます。
いずれも脚の力を腕に伝える運動連鎖を用いていますが、腕の伝わる力の速さは、抜重と荷重の手続きの関係上、《身を沈め膝を曲げる》抜重の方が早いと言えます。
このような理由から、武術の動きの方が優れているという人もおりますが、それは誤解です。
仮に、瞬時に大きな力を出したい時には、スポーツ的な身体動作よりも武術的な動きに理があります。
しかし、軽いものを遠くまで飛ばしたい時には、武術的な身体動作よりもスポーツの動きに理があります。
それぞれの動きには、使用する意味合いが違うだけです。
抜重と荷重を使いこなす「脱力トレーニング」
ここまで、抜重と荷重と行った床反力と身体動作について述べてきました。
身体動作と言うと筋肉の動きにフォーカスされがちですが、筋肉の力だけで行われるものではありません。
もちろん、筋肉がなければ、身体を動かすことはできません。
ですが、筋肉だけでも身体を動かすことができません。
筋肉についている骨があるから身体を動かすができるのです。
そして、今回の抜重と荷重を利用した力(床反力)も骨があるから利用できます。
なので、
- 骨を中心に体を動かす
という考えが必要です。
これが、脱力クリエイトの提唱する「脱力トレーニング」です。