痛みや不調の方の施術を20年近く行っていますが、不思議なことに、同じ症状でも治りやすい人もいれば、治りにくい人もいます。
その理由について、長い間、わかりませんでした。
ただ、経験から言うと
- 強もみが好きな人
- 治してくださいという人
- 治療家を心酔している人
- 自分で揉んだり、押したりする人
などは、なかなか良くなっていません。
それに対して、良くなって行く人は、
- 良くなるためのアドバイスを求める
- 自分でやれることをする
- 良いと思うことは実行する
ような人は、良くなるのも早いです。
施術でできることは、患者さんの自己修復力が発揮されやすいように調整することだけです。
どのような治療であっても、治療家が治すことは不可能です。
例えば、外科手術を行い、手術が成功しました。
手術によって、壊れた箇所をつなぎ合わせることはできてもその傷口を元通りにすることはできません。
傷口を塞ぐのは、人が持っている自己修復力、すなわち自然治癒力なのです。
手技療法でも同じで、手技で身体のバランスを整えるのは、自己修復力を高めるためであり、元通りにすることではありません。
なので、一時的な調整で完全に歪みを改善できるはずがありません。
そうであれば、通い続ければ完全に歪みを改善できるかというとそうではありません。
体の歪みの原因は、日常生活を記憶している脳のプログラムによって生じる筋肉の張りのアンバランスです。
そのように考えると、骨格を物理的に矯正しても、すぐに元の歪みに戻ってしまうのは当たり前です。
ただ、一時的に骨格を調整することで、調整された身体感覚を実感することができます。
そうすれば、その身体感覚に近づけようと自己修復力が高まります。
これが、手技による施術の効果です。
手技療法で考慮に入れなければならないこと
ただ、手技を行う際に考慮に入れなければならないことがあります。
それが、
- 痛みへの囚われ
です。
人は、痛みを敏感に感じ、一度痛めると、痛めたところに気を取られてしまいます。
なぜかと言いますと、痛みを感じることで痛めたところに負担をかけないようにするためです。
しかし、痛みが長期間続いてしまうと、痛んでいる箇所以外に意識が向かなくなり、身体感覚が鈍くなります。
【関連記事】痛みや不調と体性感覚
そうすると、痛みへの意識が強くなります。
このことで、痛みへの囚われを作られてしまいます。
手技療法にかかる人の多くは、痛みへの囚われが強くなった状態から治療を開始することがほとんどです。
なので、痛みへの囚われを解消することが第一になります。
そこで、手技療法では痛みとは無関係そうなところからアプローチしていきます。
患者さんからしたら「痛いのここじゃないのに、どうしてここを押すんだろ?」と疑問に思うかもしれません。
これは、 痛みとは無関係そうなところにアプローチすることで、痛い所から意識を逸らすためです。
これを「誘導」と言います。
そうしていくうちに、他の部位に与えれれる感覚に意識を向けてもらえれば、痛い所の意識が薄くなり、痛みへの囚われが少なくなります。
この原理は、全身に施すことで痛みに集中していた意識を全身に分散させることができます。
そうすると、身体感覚が強くなり、痛みに対する囚われがなくなります。
このような過程を繰り返すことで、人の持つ自己修復能力により痛めたところが修復され、徐々に痛みが消失していきます。
手技療法が全身治療を前提としているのは、そのためです。
痛みの背景にある心理
ですが、痛みへの囚われを払拭できなければ、なかなか痛みを解消することができません。
それには理由があり、
- 閾値(いきち)が上がる
- 痛い方へ動かそうとする
ことの2つが挙げられます。
閾値が上がる(痛みを強める原因「ストレス」)
まず、閾値という言葉は馴染みがないと思いますが、痛みを考える上で重要なことです。
痛めた箇所の閾値(いきち)が上がります。
閾値とは、感覚、反応、興奮を感じる最小限の物理量です。
【参考記事】weblio辞書「閾値」
端的に述べると、閾値が大きいと痛みに過敏になり、少しの刺激に過敏に反応してしまうということです。
例えば、身近なもので腰痛がありますが、腰痛の約8割が原因不明だと言われています。
【関連記事】腰痛が改善されない理由(腰痛を自力で改善する方法)
このようなケースの方に、抗うつ薬など向精神薬を処方すると改善されることがあると聞きます。
怪我や神経痛など、痛みに原因がある場合の痛みは、その部位が改善されたら痛みもなくなります。
ですが、原因不明の痛みに対しては、身体的に問題がなく、そのため原因がわかりませんでした。
近年、痛みと脳と神経との関係が明らかになり、このような原因不明と言われた痛みのメカニズムも分かってきました。
原因不明の痛みの原因は、普段の状態では感知できない痛み刺激を受信してしまい、脳に痛みと感知させてしまうためだと言われています。
生活をしている中で、人はさまざまな物理的刺激が与えられます。
これらの刺激を全部脳に伝えていたら、刺激の情報だけでいっぱいになってしまいます。
そこで、重要性の高い刺激情報だけを振り分けて脳に伝えています。
ですが、その振り分ける機能がうまく働かず、刺激情報を大袈裟に脳へと繋げてしまったら、脳が強い痛みや多くの痛みと捉えてしまいます。
言うなれば、刺激に対して過敏になり、通常よりも強く感じたり、複数の箇所を同時に感じたりすることです。
このようなことが起こるのは、交感神経が過緊張した状態であり、この時、閾値が大きくなります。
なので、精神を安定させる薬を処方されると痛みが落ち着いたり、気分を落ち着けると痛みが落ち着いたりします。
すなわち、ストレスによって痛みが強くなるということです。
このような場合、痛みに囚われてしまいがちです。
痛い方へ動かそうとする行動(痛みを確かめたい心理)
次に、痛む方向へと動かそうとするという行動についてです。
これは、筋肉や腱を痛めたりしている人に多いです。
例えば、五十肩など、動かすと痛みが強くなったり、何かの拍子で痛みが強くなったりするなどのケースです。
【関連記事】五十肩(腕の動きを制限する つらくて痛い疾患)
一見すると不思議な行動なのですが、無意識のうちに行っているので、そのつもりがなくても知らず知らずのうちに痛めてしまう方へと動かしいます。
本当であれば、痛くないようにそーとしておけば、知らぬ間に治っているものです。
(気を逸らしていても、痛みが治らず、だんだん酷くなる時には要注意ですが・・・。)
その背景には、痛めたところが治っていないか確認して安心したいと深層心理があります。
しかし、そう簡単に治るわけもありません。
かえって痛みのある方向へと動かすことで、痛みを助長して、回復が遅くなってしまうのです。
このようなケースも、痛みに囚われてしまうことが原因です。
痛みへの囚われから脱却するためには
このように、一度、痛みへの囚われを強くしてしまうと、その囚われを解くことが難しくなります。
なぜなのか?
その理由が、変性意識にあったのです。
【関連記事】囚われという変性意識
特に、変性意識に陥りやすくなる心理状態に、
- 依存
があります。
例えば、
- 治してもらいたい
- 治療家を心酔する
- 強もみが好き
- 自分で叩いたり押したりする
などの行動です。
依存心が強くなると、痛みや不調への意識を強めてしまい、意識が狭くなる催眠という変性意識状態に陥ります。
このことが、痛みへの囚われを生んでしまう原因となるのです。
逆を言えば、変性意識を解くことができれば、痛みも改善できるとも言えます。
このことから、今は、施術よりも自力調整を推奨しております。
その理由は、自力調整の方が依存心を生むことが少なく、変性意識の弊害を起こさずにすむからです。
そうすれば、痛みの囚われから脱却して、痛みを改善しやすくなります。
実際に、痛みに関しては施術よりも効果があるのは確かです。
そもそも自力調整ができないような痛みであれば、医療機関を受診するべきです。
なので、必要以上に施術を行う必要はありません。
特に、施しを受けると施術者に依存が生まれ、変性意識に陥りやすくなります。
このことで、回復を遅くしていることさえあるのです。
そして、何より、自力調整で痛みを改善できた人は、自分に自信を持つことができます。
このことが、自力調整の何よりもメリットだと考えております。