- 高い声
- 大きな声
- 響く声
を出そうとすると、例外なく力んでしまいます。
なぜかと言いますと、人は筋肉の感覚が強く、筋肉の収縮させることで力が出ている感覚を得ようとするためです。
これが、俗にいう「力み」です。
ですが、力を出している感覚とは裏腹に、実際には大した力を出せていません。
本当に力を発揮できる時というのは、力を出した感覚を覚えません。
この感覚を「脱力」と呼んでいます。
実際には、筋肉の収縮が行われているので厳密には脱力ではありません。
なので「脱力」というのは感覚用語だと言えます。
なぜ、脱力した状態で動作を行うと力を出した感覚「力感」が得られないのかと言いますと、脱力動作では主動作筋と拮抗筋が同時に働かないためです。
逆に「力感」を覚える時には主動作筋と拮抗筋が同時に働いている状態、言うならば「ブレーキを踏みながらアクセルを吹かしている」状態です。
【参考ページ】脱力トレーニングとは
このことは、声を出すこと発声法においても例外ではありません。
物事を突き詰めていく過程で、無駄な力が入っているとパフォーマンスが上がらないことは経験的に知られています。
その理由を明確に説明している人は少ないですが。
なので「脱力」の大切さも広く知られていると思います。
声を出す際も、
- 喉に力が入ったり
- 胸に力が入ったり
- 肩に力が入ったり
するとうまく声を出すことができません。
なので、「おなかにだけ力を入れて、あとはリラックスしましょう」と腹式呼吸による発声法を提唱する人がいるのでしょう。
結論から言いますと、腹式呼吸による発声法を覚えてしまうことは、いくつかのデメリットを抱えることになります。
そのデメリットとは?
腹式呼吸発声法のデメリット
腹式呼吸発声法のデメリットは、いくつかあり、その中で大きなデメリットとなるのが3つあります。
それは、
- 声帯に負担をかける
- 声に個性がなくなる
- 労力の割には声が響かない
ことです。
声帯に負担がかかる
腹式呼吸によって息を吐くと勢い強く息を出すことができます。
ですが、声を出すことにおいては勢いよく息を出す必要はありません。
そればかりか、その勢いによって声帯に大きな負担をかけてしまうことになります。
特に、高音域の声を出そうとする時、感覚的に「勢いよく息を出さなければ」と思ってしまいます。
高音域が出せなくて悩んでいる人に、このような傾向があります。
それとは、裏腹に「高い声」を出すことができません。
確かに、息のスピードが速いほど高い音が出るのは事実です。
ですが、そうすると息の勢いに負けて声帯が閉じなくなり、高い声を出すことができません。
高音域の声を出すためには、声帯をしっかりと閉じることが必要なのです。
ここで、声のメカニズムの話をします。
声を出す際に、声帯は閉じます。
声帯が閉じることで、声帯が振動し、これが声の原型になります。
ですが、必要以上に勢いよく息を出そうとすると声帯が閉じにくくなります。
そうすると、声を出しにくくなります。
先程の、高い声を出そうとして一生懸命息を吐き出そうとすればするほど声が出なくなるという悪循環に陥ってしまうのは、そのためです。
感覚的に捉えて、このような勘違いをしがちですが、実際は、息を強く吹きかけない方が高い声を出すことができるのです。
このことで、声帯をしっかり閉じたまま発声ができるためです
例えば、ホースで水まきをする時に、ホースの先をつまむと水の勢いが強くなります。
大元の水流を多くしていないにも関わらず。
これは、ホースの先をつまむことで、その部分の水のスピードが速くなるためです。
そう、声も同じです。
息を強く吐き出さない方が、声帯がうまく閉じて声帯を通る息のスピードを高められ、高い声を出しやすくなるのです。
楽に高音域の声を出せる人は、このことを経験的に知っています。
そう、高い声を出そうとするのであれば、息の勢いは必要ありません。
逆に、息の勢いを強めようとすると声帯を閉じれなくなり高音域を出すことができません。
このような問題は、ボイトレでも課題になっているため「リラックスが大切だ」と言われてはいますが、腹式呼吸での発声法を行う限りリラックスさせることができないことは、ほとんど知られていません。
なので「ゆっくりと長く吐きましょう」ということなのでしょう。
ですが、おなかに力を入れる限り、リラックスできないのです。
なぜならば、おなかに力を入れると全身に力が入るようになっているのが人体の構造だからです。
そうなると、意識的に脱力を心がけなければならなくなります。
意識的に「脱力しよう」とすると、肝腎の自身の声の出し方に意識が削がれてしまうのです。
【関連記事】内部感覚を研ぎ澄ます脱力動作の問題点
そうして、知らず知らずのうちに声帯を痛めてしまうのです。
声に個性がなくなる
ボイストレーニングで腹式呼吸による発声法が前提になるのは、声を出しやすくするためです。
ですが、声に個性がなくなります。
声の個性を決めているのが、共鳴腔です。
人には、鼻腔と胸郭の2つの共鳴腔あると考えられます。
そして、2つの共鳴腔が同時に働くためには、顎と舌が巧みに動かす必要があります。
人が普段、話す時には比較的にリラックスしているため、顎と舌が複雑に動き、この二つの共鳴啌が同時に共鳴していると考えられ、人それぞれの声の特徴となります。
人の声に個性があるのは、そのためです。
ですが、
- 大きな声
- 高い声
を出そうとした途端、声が出なくなります。
その理由に「声を出す」ことを意識してしまうことで、無意識のうちに首や肩、胸を力ませてしまい、それと連動して顎と舌も緊張してしまうことがあります。
そこで「おなかから息を出すように意識する」とどうなるでしょう。
声を出しやすくなります。
この理由は、おなかに力が入ることで息を勢いよく出せるようになるためです。
この原理は、おなかの筋肉が収縮することにより肋骨が動き、胸郭が圧迫されて肺から空気を出しやすくなることにあります。
その典型的な例が、咳やくしゃみです。
咳やくしゃみをした時に、大きな声と共に体が前かがみになります。
この時、腹筋の収縮と同時に声帯を閉じ気管内の気圧を高めて一気に解放して気管に入った異物を排出しようとします。
そう、腹式呼吸の発声法とは、この原理を利用したものだったのです。
ただ、それでは姿勢が崩れてしまいます。
姿勢が崩れてしまうと顎と舌を動かしにくくなり、滑舌が悪くなります。
そうならないように背筋を使い、姿勢を正します。
姿勢を正すことで顎と舌を動かしやすくなり、滑舌も良くなります。
ボイトレで、必要以上に姿勢を正すこと強調されるのは、そのためです。
ですが、腹式呼吸での発声法ではきれいな声を出すことができても、個性的な声を出すことはできません。
その理由に、
- 息の速度を高めることで共鳴を起こしにくい
ことが考えられます。
人が声を出す時、声帯に息を吹きかけるだけでは小さな音しか出せません。
大きな音を出すためには、必ず空洞が必要です。
例えば、多くの楽器には大きなボディが付いています。
その中は、空洞になっていて、その空洞に音を共鳴させることで音を増幅させ、音を大きくしています。
なので、腹式呼吸発声法でも必ず共鳴をしています。
ですが、ワンパターンな共鳴しか起こせません。
その理由は、発声を声帯に依存してしまうためです。
声が誕生するには、
- 声帯が振動して声の元になる音ができる(音程・振動)
- 声帯で作られた音を口で声へと変換する
- 共鳴腔で声を共鳴する
のプロセスを踏みます。
ですが、腹式呼吸による発声法では、空気の勢いが強いため2つある共鳴腔に同時に共鳴させることができず、1つの共鳴腔だけに特定されてしまいます。
例えば、
- 低い声は、胸郭
- 高い声は、鼻腔
という具合に。
そうなると、声帯の操作でしか声(音程やビブラートなど)をコントロールできません。
例えば、声帯の伸び具合
- 低い声は声帯の張りが弱く
- 高い声は声帯の張りが強く
と振動の具合だけで声をコントロールといった具合に。
そうなると、人それぞれの声質に差がなくなり、個性がなくなります。
腹式呼吸発声法を覚えると声に個性がなくなるのは、2つの共鳴腔を同時に共鳴させられなくなるからだったのです。
労力の割に声が響かない
発声の経験のない人が腹式呼吸を覚えると声を出しやすくなるのは事実ですが、発声し慣れると意外に労力を使っていることに気がつくかもしれません。
よく「ストレス発散のためにカラオケへ」と言いますが、これは声を出すことに労力が必要だと感じているからでしょう。
カラオケで表示される消費カロリーとか。
そう「声を出す=パワー」という感覚です。
それは、腹式呼吸発声法でも例外ではありません。
発声の経験がない人は、首や肩に力を入れて声を出します。
それに対して、腹式呼吸発声法ではおなかと背筋に力を入れて声を出します。
首や肩に力を入れるよりも息が出しやすくなるので声を出すには効率は良いのですが、力を入れて声を出すことには変わりありません。
ただ、必要以上に力を入れると声をコントロールしにくくなるので、発声に慣れた人は脱力(リラックス)を意識します。
ですが、力を入れて声を出すシステムの発声法であるがために、脱力を心がけたとしても限界はあります。
やっぱり
- 力(筋力)のある人には敵わない
とか
- 大きな人には敵わない
など。
筋力が強ければ息を勢いよく吐き出せますし、体格があれば共鳴腔も大きく響かせやすいので声量も大きいのも当然です。
むしろ、力のある人や大きな人の方が余裕がある分、脱力(リラックス)しやすいでしょう。
腹式呼吸発声法で声を大きく出そうとすると、
- 筋力
- 体格
が必要だと想像がつきます。
もし、あなたが腹式呼吸発声法を知っていて、体が小さく、腹筋の力が少ないとします。
大きな声を出そうとするとしたら、どのようにしようとしますか?
おなかに力を入れて、頑張って声を前に出そうとするでしょう。
ですが、それでは、
- キンキンとした耳障りの悪く
かつ
- 遠くまで届かない
声になってしまいます。
下の動画で、腹式呼吸発声法と2つの共鳴腔を利用した発声法との違いを挙げています。
【関連動画】ダブル共鳴と腹式呼吸発声法とのちがい
だからと言って、大きく力のある人のように脱力して声を出したとしても同じようにはいきません。
これが、腹式呼吸発声法の限界です。
ですが、失望する必要はありません。
本来、人の声は、遠くまで響くようにできています。
それが、脱力クリエイトの提唱する「ダブル共鳴」です。
ダブル共鳴とは
人の身体には、鼻腔と胸郭の2つの共鳴腔があると考えてられ、それぞれ鼻腔共鳴と胸郭共鳴とします。
(正確には気管が胸郭の共鳴腔ですが、気管の共鳴によって胸郭も共振(振動)するため胸郭共鳴と名づけました。)
あと、口腔を共鳴腔としている説もありますが、口腔は声の元を作る箇所だと考えているため、脱力クリエイトでは口腔を共鳴腔と考えておりません。
この2つの共鳴腔を同時に共鳴させることができれば、声の響きが大きく、かつ自在に変えることができるようになります。
現に、日常の話し声は、声の響きに強弱をつけたり、音色を変えたりしながら会話しています。
ただ、ここ一番という場面に立った時、声を出すことを意識した時には、声の響きをコントロールできなくなります。
そこで、おなかに力を入れた方が声を出しやすくなると気がついた人がいるのでしょう。
このような方法でしたら、脱力しなくても声を出しやすくなるため、多くの人を指導するためには好都合です。
声を出せる人を大量生産しようという考えが、腹式呼吸による発声法なのです。
ですが、腹式呼吸発声法を用いて声を出すと声の響きをコントロールできなくなり、単調な声質になってしまい、体格や筋力に大きな影響を受けてしまいます。
これが、腹式呼吸発声法のデメリットです。
ここで「ダブル共鳴」について述べていきたいと思います。
発声において、一番重要になるのが、顎と舌の動きです。
顎と舌の動きの自由度が高ければ、声を巧みにコントロールすることができます。
例えば、同じ音程で
- 高い音程で低い音色
と
- 低い音程で高い音色
を使い分けることができます。
これは、鼻腔と胸郭を同時に共鳴させているからです。
あと、高い声を出せる人が悩んでいるのが声量です。
高い声の人は、声量が不足してか細い声の人が多いです。
ダブル共鳴を使えば、声質が高い人でも胸郭の共鳴を織り交ぜれば無理なく声量を上げることもできます。
【関連記事】声の共鳴のメカニズム
このようにして発声すると、労力を費やすことなく
- 声量をコントロール
したり
- 音程をコントロール
することもできるようになります。
ちなみに、日常で行われている会話のほとんどがダブル共鳴で行われています。
なので、人の声には個性があるのです。
ただ、「力み」によってダブル共鳴がなくなります。
「力み」の根本的な原因は、体の歪みです。
体の歪みを整えていけば「力み」にくい身体になります。
そう「脱力」を心がけなくても脱力できる身体「脱力体」を得ることができます。
そのために必要なのが、「身体軸」です。
身体軸は、身体のバランスを整えるためのバランサーです。
身体軸を持つと、緊張した場面に直面した時でも体を動かせるようになります。
むしろ、この緊張感を力に変えることができます。
普段以上に響く声を出したり、声をコントロールすることも可能になると考えております。