身体操作ではない、身体調整という考え方

体の動きの質を高めようとする時、身体を鍛えようとすると思いがちです。

 

体を鍛えることは良いことですが、体を鍛えれば体の動きの質を高めることができるというのは早計です。

 

例えば、筋トレやコアトレもそうです。

 

これらのトレーニングは身体の調整が本当の目的です。

 

トレーニングを行うことで

  • 筋肉のバランス
  • 神経の働きのバランス
  • 骨格の位置

が良くなり、結果、体の動きが良くなるのです。

 

なので、トレーニング=パフォーマンスUPという考え方で行なっていると、アンバランスな筋肉の付け方をしてしまったり、「力み」を生み出す原因となりかねません。

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最近では、体を鍛えること以外に、武術の技法を使った身体操作法が注目されています。

 

武術の技法に、

  • 年齢の壁を超えられる可能性

  • 不可能を可能にする神秘性

などを感じるからなのでしょう。

 

例えば、

  • 合気上げ
  • 膝抜き
  • 寸勁

などがそうです。

 

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しかし、これらの技法だけを取り上げて、あたかも高度な身体操作法で行われると謳っている人たちもいます。

 

例えば、

  • 肩甲骨を操作して

とか

  • 肋骨を操作して

とか

  • 背骨を操作して

など。

 

実際には、このような達人技には、そのような特別な身体操作など必要ありません。

 

逆に、実戦の最中に身体操作などに意識を向けていたら、相手の動きに意識が行かなくなり、倒されてしまう危険性もあるため現実的ではありません。

 

ただ、達人は例外なく、一般人よりも背骨や肋骨、肩甲骨や股関節が連動して動いているのは事実です。

 

なので、達人の動きを見て、特別な身体操作法を行おうと思ったのでしょう。

 

ですが、

  • 意図的に動かす

ことと

  • 連動して動いている

ことでは、天と地ほどの違いがあります。

 

その理由とは?

受動的身体操作と能動的身体操作との相違

身体のキレを良くするために

  • 背骨
  • 肋骨

などの体幹部、

  • 肩甲骨
  • 股関節

などの体幹に付随する四肢帯を動かすことは重要であることは事実です。

 

ですが、それらを実際の動作の最中に行なっても意味がありません。

 

デモンストレーションのように、相手が止まっていなければ成立しないのですから。

 

達人の動きの中に、背骨や肋骨、肩甲骨や股関節が巧みに動いているは事実です。

 

しかし、実際の動作の最中に、意図的な身体操作を行なっているわけではありません。

 

実際の動作の中で、

  • 背骨や肋骨、肩甲骨や股関節が動いて

いるのであって、

  • 背骨や肋骨、肩甲骨や股関節を動かして

いるわけではないのです。

 

恐らく、達人と呼ばれる人は、武術という専門的な練習の中で、背骨や肋骨、肩甲骨や股関節が巧みに動く身体を作っていったと考えられます。

武術の達人と呼ばれる天才

しかし、いくら技術を高めようとしても、加齢とともに身体のキレがなくなることは避けられまえん。

 

なので、年齢を重ねるごとに技が磨かれ、体のキレが良くということは、通常、考えられません。

 

スポーツ選手が若いうちしか現役でいられないのが、何よりの証拠です。

 

これは、武術であっても例外ではありません。

 

ただ、武術で行われている技法の中には、日常生活で無意識のうちに行なっている動作と同じ原理で行われているものがあります。

  

武術の達人の技が小さくゆっくりでありながら、年齢を重ねても無駄のないキレのある動きを維持できるのは、そのためなのかもしれません。

 

スポーツよりも武術の方が長い期間行い続けられる可能性があるのだと考えられます。

 

それでも、実際には不可能なことで、武術の達人と呼ばれる人は、ある種の天才です。

 

ですが、年齢を重ねても身体のキレを高めていくことは可能です。

 

その方法が、身体調整です。

身体調整の可能性

身体調整と言っても他者調整と自己調整があり、他者調整は、マッサージや整体などです。

 

ですが、ここでいう身体調整とは自己調整のことです。

 

大田式調整動作の提案する脱力トレーニングの考え方は、身体調整によって脱力体を作るというものです。

 

身体調整においては、

  • 背骨
  • 肋骨
  • 肩甲骨
  • 股関節

などの関節を意識して動かすことが大切です。

 

武術系身体操作で、これらの部位を動かすことに注目したのは、着眼点は良いのですが、その運用に問題がありました。

 

実際の動作を行おうとする時に、体幹部を動かそうとすることが大きな間違いだったのです。

 

そう、実際の動作と身体操作とを分けて考える。

 

車のレースで例えると

  • 身体操作は、マシンのメカニック
  • 実際の動作は、ドライバーの運転技術

です。

 

レースの前でしたら、マシーンの整備はとても重要です。

 

ですが、レースをしながらマシーンを整備できるはずがありません。

 

レースでは、ドライバーがコース取りや速度、路面の状態に意識を置くはずです。

 

体幹部の身体操作を行うということは、マシーンの整備をしながらレースに挑むようなものですので、上手くいくはずがありません。

 

そのための身体操作が、身体の自力調整であり、身体メンテナンスです。

 

ただ、マシーンと異なり、人には自己調整作用が備わっています。

 

その作用を発動させるには、他者調整よりも自力調整の方が向いています。

 

ここで、身体調整について簡潔に述べていきたいと思います。

 

身体調整を行うためには、普段動かさない動作を行う必要があります。

 

普段の動作ばかり行なってしまうと、筋肉の張りのバランスが悪くなるからです。

 

普段行わない動作を行うことで、筋肉の張りのバランスが整い、骨格の動きのバランスが整います。

 

そうすると、全身の関節のアライメント(位置)が良くなり、動きが滑らかになります。

 

これが、脱力する身体「脱力体」です。

 

脱力体が作られれば、意図的に身体操作を行わなくても、自然に全身の関節が滑らかに動くようになります。

 

そうすれば、実際の動作においても、効率的な動きを行うことが可能になります。

 

その上、今まで培ってきた専門的な技術とも喧嘩せずにすむばかりか、その技術をより良く活かすことも可能になります。

 

そして、何より、身体を若返らせることもできます。

 

老化が、パフォーマンスを落とす大きな要因となるからです。

 

そして、身体に負担がかからなくなるために、怪我をしにくくなります。

 

さらに、専門的な技術で負担のかかった筋肉のコンディションを良くすることもできるため、リカバリー(回復)効果も期待できます。