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身体操作という催眠術(合気上げ・膝抜き・寸勁)

最近では、武術の技法、特に武術の身体操作法が注目されている感じがします。

 

武術の技には、馴染みのある一般的なスポーツの動きとは異なる動きがあります。

 

そこが、神秘的?というか魅力的なのだと思います。

 

演武を見ていると「かっこいいな」と思います。

 

しかも、年配の方がキレのある動きを披露していれば尚更です。

 

しかし、武術の技の一部を抽出した身体操作法には注意が必要です。

身体操作法とは

身体操作とは、武術の技の一場面を取り出して

  • 体幹部
  • 四肢帯(肩甲骨や股関節)
  • 腕や脚

などを意図的に操作する身体操作法です。

 

代表的なものに、

  • 合気上げ
  • 寸勁(けい)
  • 膝抜き

などがあります。

合気上げ

合気上げとは、腕を掴まれた状態から相手を持ち上げて相手の体勢を崩す技です。

【参考記事】合気上げの原理

 

普通に考えたら腕を掴まれてしまっては動かすことなどできません。

 

それをいとも簡単に行なってしまうのですから、原理を知らない人にとってはとても不思議な技です。

 

なので、デモンストレーションとしては都合の良い技でもあります。

 

まず、術者がお客さんに

腕をしっかり掴んでください」

と指示をして、

「力で行うと動かすことができません」

と言い、次に

「ですが、力を使わないと」

と言い、合気上げを行うと不思議なことに腕を持ち上げられてしまいます。

 

しっかり掴んでいても持ち上げられるので、余計に不思議でなりません。

  

しかも、腕力で持ち上げられのとは違う不思議な力で持ち上げられた感覚がするので尚更です。

 

そうして、不思議な体験を脳に刻み込むことができます。

 

そして、実演をしてから技の説明をしていきます。

 

その説明が

  • 肩甲骨をスライドさせるように

とか

  • 肋骨を使って

とか

  • 背骨をうねらせて

などというような身体操作の方法です。

 

このようなことを言われても、できるはずがありません。

 

なんせ体幹なんて動かしたことないのですから。

 

ただ、このような体のパーツは誰にでもあり、その原理も理屈ぽいので

「もしかしたら訓練すればできるようになるのでは!」

と思ってしまうのが人情というものです。

 

ですが、このようなもっともらしい身体操作には致命的な欠点があるのです。

膝 抜 き

多くのスポーツが中腰でプレーします。

 

そうすると、

  • 体を横に振ったり
  • 身をかがめたり
  • ジャンプしたり

などの予備動作を必要とします。

 

なぜかと言いますと、低重心で構えると膝に力が入っているため足を前に出すことができないからです。

 

動き出す前に予備動作を行うことで、片足に体重が乗り、もう片方の膝の力が抜け、前に進むことができます。

 

その反面、予備動作を行うと相手に動きを読まれやすくなります。

 

それならば「予備動作をしない武術の動きを取り入れれば!」と言うのが「膝抜き」なのだと思います。

 

これは、武術の「膝の抜き」とか「居着かない動き」の原則を抽出したものなのでしょう。

 

確かに、武術では「居着く」こと忌み嫌います。

 

なぜかと言いますと、速く動こうとして踏ん張ってしまうと、一瞬、動きが止まってしまい、その間に相手に切られてしまうからです。

【関連記事】武術が予備動作を忌み嫌う訳

 

この「居着かない」予備動作のない体捌きの正体が「膝の力を抜くこと」だと理解できれば、練習すればできるようになるだろうと言うのが心情です。

 

しかし、これには致命的な罠があるのです。

寸勁(すんけい)

あと、武術的身体操作で用いられるのが「寸勁」です。

 

寸勁とは、密着するぐらいの隙間(一寸が約3㎝)から拳や肘などの打撃を伝える中国武術で行われる技法のことです。

 

我々が何も考えずに「パンチを打とう」とすれば必ず後ろに振りかぶります。

 

熟練者のパンチは後ろに引くモーションが小さいですが、それでもパンチを打とうとする打点まで、ある程度の距離を必要とします。

 

その間に拳のスピードを加速させて威力を高める必要があるためです。

 

ところが、寸勁という技は0距離に近い間合いから拳打を放ち、相手を吹き飛ぶのですからとても不思議です。

 

常識的に考えて、不思議な技です。

 

振りかぶらずに打てること自体が不思議なのに、その上吹き飛ぶのですから。

 

強い選手のパンチでも、大きく吹き飛ぶパンチを見たことがありません。

 

そこで、術者が実演し、お客さんに受けてもらうと、さらに驚くでしょう。

 

そうして驚いてもらってから、技の説明に入ります。

 

ここでも、

  • 股関節を使って

とか

  • 背骨をうねらせて

とか

  • 肩甲骨を使って

などと体幹を使った身体操作法が説明されます。

 

このように説明されれば「この先生に教えてもらえば、できるようになりそう」という期待感を覚えます。

 

ただ、このような方法でできるようになったとしても、その技の持つ本質とはかけ離れたものです。

身体操作法が行われる理由

身体操作を行うことで達人に近づけるイメージを抱かせます。

 

そのため「この技ができれば」という希望を抱かせます。

 

人は、常識と大きく乖離したものに対して憧れを持つ反面、敬遠する傾向があります。

 

武術の技も例外ではなく、常識では考えられない技というものは、人によっては憧れになり、反対に「こんなことできるはずがない」とか「イカサマだ」などと批判の対象になります。

 

上記の合気上げにしても、膝抜きにしても、寸勁にしてもそうです。

 

身体操作には、

  • 気を操作する古典的身体操作法
  • 解剖学、生理学、物理学的な現代的身体操作法

の2通りあります。

 

気を操作する系統の古典的身体操作法は、非科学的なため曖昧な説明しか行えず、習得が難しく、門弟以外には胡散臭く感じられてしまう欠点があります。

 

そこで、解剖学的、生理学的、物理学的説明を行いながら行う現代的身体操作法は、その通りに身体を操作するようにデモンストレーションを行うと、批判が薄れます。

 

それによって、「常識から考えられない」から「理論があるんだ」「それならインチキではないかも」と誘導できます。

 

特に、現代社会は科学的であることが尊ばれていますので、科学用語で説明されれば鵜呑みに信じこんでしまいがちです。(それが誤りであったとしても)

 

このように科学武装することで、アンチを減らし、入門へのハードを低くすることができます。

 

武術的なパフォーマンスは昔より行われる集客法ですが、現代では科学的な説明でなければ納得を得られないため、パフォーマンスで集客することが難しくなっている背景があると考えられます。

 

気を用いた古典的身体操作は見るからに胡散臭いので、催眠を用いていることは感覚的に気がつきます。

 

しかし、科学武装によってもっともらしく説明する現代的身体操作法も本質的には変わらず、催眠を用いた集客テクニックなのです。

 

人は、一点に凝視すると催眠という変性意識状態になります。

 

そうすると、判断力や思考力、洞察力が低くなる「思考停止状態」に陥り、術者の言うことを鵜呑みに信じてしまいます。

 

科学的に説明しているので催眠とは無縁に思われますが、そこがミソです。

 

術者が身体操作を説明する時に、身体の一部分を使い説明します。

 

身体の一部を凝視させることが催眠の技法です。

 

手品師が手品を行う時に、手品に意識を凝視させることで仕掛けに目が行かなくなります。

 

手品を成功させるには、仕掛けに意識が向かないように一点を凝視させられるかがカギになるのです。

 

例えば、技を行う時に術者が

「肩甲骨をこのように操作して」

と言うと、見ている人は肩甲骨の動きを凝視します。

 

肩甲骨を凝視している間に綺麗に技がかかるので、

「肩甲骨だけを操作すれば同じように技をかけられるようになる」

と勘違いしてしまいます。

 

実際は、肩甲骨ばかりではなく、他のパーツも連動して動いているのですが、凝視しているので他のところの動きや受けている人の動きに気がつきません。

 

このような時、手品と同じように、肩甲骨以外の動きにタネがあったりします。

 

なので、術者と同じように肩甲骨ばかりを動かそうとしても術者のように技をかけられません。

 

そうなると、

「やっぱり、この先生すごい」

となり、

「この人についていけば、いつか習得できるようになる」

と思い込ませることができます。

 

そうして、教えられた意識を凝視するような技法を繰り返すことで、深い催眠状態に陥り、先生を無批判に信じ込む状態が作られます。

 

このようにして、視野を狭くして術者の都合の良い方向へ誘導することでリピートし続ける状態を作る手段として行われるのが、武術的身体操作です。

信者化させる手段

身体操作の先生による信者化には、2つのタイプがありそうです。

 

まず一つが、催眠の仕組みを利用して信者化する方法です。

 

例えば、

  • 合気上げだったら、強く持たせる

とか、

  • 膝抜きだったら、ダメな例を数回行ってから、華麗にかわす

とか、

  • 打ち込む箇所を限定させて華麗に技をかける

など、術者にとって都合の良い状況を作る方法です。

 

この時、受け手はその状況下に意識が狭窄してしまい、反応できなくなります。

 

ですが、術者はその状況下では自由に行動できるため、素早い反応ができます。

 

なので、受け手の人に「先生すごい!」と実力以上に評価されます。

 

もう一つが、自ら深い催眠状態に陥ることで生徒を信者化するケースです。

 

このような術者は、実際の動作に反映させることができます。

 

おそらく「気」の感覚を自覚して、気を活用できる古典的身体操作法を体得した人だと考えます。

 

気の感覚は、脱力した時に感じやすくなります。

 

なので、技を練習する際に「脱力」を意識して行います。

 

そうしていくうちに「気の感覚」を掴むことができるようになります。

 

さらに、掴んだ気の感覚を使って技を練習していくと気をコントロールすることができるようになります。

 

やがて、気をコントロールする練習を繰り返し行うことによって深い催眠状態に陥っていきます。

【関連記事」気をコントロールすることの危険性

 

このような術者は、自身の魅力だけで生徒を信者化することができるようになります。

 

その理由は、浅い変性意識にある人は深い変性意識にある人に従ってしまうからです。

【関連記事】変性意識カースト(人間関係に潜む背景)

 

この手の身体操作を教えている人は、表向きには「気」という言葉を使っていなくても、自身で行う練習では「気」を意識している隠れ古典的身体操作法を行なっている人だと思います。

 

ただ、このような人は、実際の場面では気を用いて相手の気配を呼んだり、気を用いて身体を操作できるため、実際に使える技を持っています。

 

ですが、弟子には「気」で説明していないため、デモンストレーションのために大袈裟に身体を操作しているだけです。

身体操作法の問題点

これらのような、術者の行う巧みに見える身体操作は、デモンストレーションの場でしか行えない非現実的なものであり、夢の中だけの話です。

 

その証拠に、

  • 相手に止まってもらう必要がある
  • 相手が見えなくなる
  • 技を出すためのタイムラグがある

などの3点が挙げられます。

 

そのため、実用に耐えられないという現実があります。

相手に止まってもらう必要がある

身体操作を用いて技を実行しようとすると、相手に止まってもらう必要があります。

 

ここでは、合気上げを例に述べていきます。

 

合気上げの場合、相手にしっかりと握ってもらうことが前提で行われます。

 

一見すると忖度なしに行っているとなりそうですが、そうではありません。

 

意外なことに、

  • しっかりと掴んでもらった方が技をかけやすい

のが合気上げという技のカラクリです。

 

ですが、腕を掴もうとする時に掴んだままじっとしていることは不自然です。

 

腕を掴んだら、すぐに引っ張ろうとするはずです。

 

そして、相手は反対側の拳でパンチを繰り出したり、服や胴体を掴んで投げようとするかもしれません。

 

なので、しっかりと掴まれたらOUTです。

 

もし、実際の場面で合気上げを行おうとするのであれば、掴まれた瞬間を狙って瞬時に技をかけなければなりません。

 

そのような時に、身体操作などと考えている暇はありません。

 

ただ、実際の場面においては、いきなり腕を掴むことなど考えられませんが。

相手が見えなくなる

武術的身体操作を行おうとする時、自分の身体への意識が強くなります。

 

そうなると、相手の動きに意識が向かなくなり相手が見えなくなります。

 

ここでは、膝抜きを例に述べていきます。

 

膝抜きを行う際、

  • 動き出す時に膝を抜いて

と言われます。

 

ですが、相手と相対している時に、相手に意識を向けないのは悪手です。

 

相手は、何らかしらの変化を出して出し抜こうとして動いているからです。

 

なので、一瞬の隙もありません。

 

そのような状態の時に、一瞬でも「膝を抜こう」なんて考え、膝に意識を向けようものなら出し抜こうとする相手の動きが見えなくなります。

 

人は、一つのことに気を取られると周りが見えなくなります。

 

「膝を抜こう」という考えた瞬間、相手を見失ってしまうのです。

 

さらに、悪いことに「膝を抜こう」と脳に指令を出す瞬間、一瞬、体が止まってしまいます。

 

これは「思考の予備動作」であり、膝の力を抜こうとする予備動作とも言えます。

 

その隙を相手が見逃すわけがありません。

 

相手は予備動作を使って出し抜き、数メートル先を走り去っています。

技を出すためのタイムラグがある

武術的身体操作を行おうとすると、身体操作を行うためのタメが必要となります。

 

そのタメを作る時間がタイムラグになります。

 

ここでは、寸勁を例に述べていきたいと思います。

 

打撃の威力を上げるためには、拳を走らせるための時間が必要です。

 

普通のパンチも威力を出すために間合いが必要なので、素人でしたら大きく振りかぶったり、熟練者でも小さくスイングしますがある程度の距離が必要です。

 

これは、寸勁でも例外ではありません。

 

寸勁では、拳を走らせるための距離を

  • 股関節を動かす
  • 背骨をうねらす
  • 肩甲骨を引く

ことで稼いでいます。

 

このような操作を行うことでタメを作り、威力を出しているのです。

 

ただ、タメを作っている一瞬がタイムラグになってしまいます。

 

実戦の場面では、じっと待ってくれる相手など存在しません。

 

寸勁を打とうと身体操作を行っている隙に、避けたり、攻撃したりするでしょう。

実際の動作に活かせない武術的身体操作法

このように、武術の技に対する身体操作法は実際の動作に活かすことができません。

 

その証拠に、武術的身体操作法をそのような人たちが行う技にはタイムラグがあり、発動するまでに時間がかかります。

 

そう、相手にじっと待っていてもらえるからできるのです。

 

そして何より、合気上げにしても膝抜きにしても、寸勁にしても、本当に使える人の技は早く、タイミングの取り方も上手です。

 

そのような人たちが、技を発動させる際に身体操作などに意識を向けることはありません。

 

むしろ、対する相手に意識を向けています。

 

そう、実際の動作を行おうとする時に身体操作を意識してはいけないのです。

【関連記事】内部感覚を研ぎ澄ます脱力動作法の問題点

 

これは、武術だけではなく、スポーツでも日常生活動作でも同じです。

 

身体操作法とは、催眠術です。

 

催眠状態では、実際の動作に反映させることができません。

 

それは、夢の中の世界だからです。

 

このような理由から、身体操作法は実際の動作には活かすことができないと考えております。