武術で行われるパフォーマンスの中に「持ち上がらない体」というものがあります。
これは、体を持ち上げるようとしても持ち上がらなくなるというものです。
大きな人であれば、持ち上げることは難しいのは理解できますが、小柄な人や女性でも持ち上がらなくなるから不思議です。
例え、それが屈強の怪力の持ち主であったとしても。
もちろん、体重そのものが変わる訳ではありません。
もしかして、インチキなのか?
そうでは、ありません。
これには、ちゃんとした理由があるのです。
持ち上がらなくなる理由
赤ちゃんを抱っこしていて、眠りはじめると急に重くなったように感じた経験はありませんか?
小さい体なのに、重く感じる。
そう、これが脱力による重みの変化です。
もちろん、体重が変化するわけではありませんが。
では、なぜ脱力すると重くなるのかでしょうか?
これは、脱力すると体のパーツがバラバラに動くためです。
例えば、水の入った500mℓのペットボトルを持つとします。
それを持ち上げることは造作のないことだと思います。
ですが、500mℓの水の入った袋を持ち上げようとすると、どうでしょう?
ちょっと持ち上げにくくなります。
同じ500mlの水でも袋とペットボトルでは、持った時の体感が変わります。
これは、このような原理です。
ペットボトルは、表面が固いので手で掴みやすく、持ち上げる力が伝わりやすいです。
なので、中に入っている水の重心を上へ移動させやすくなります。
それに対して、袋は表面が柔らかく、持ち上げようとしても中に入っている水に持ち上げる力が伝わりません。
なので、中に入っている水の重心を上へと動かすことができません。
袋に入った水の重心を上へ移動させるためには、袋がつり上がるまで引き上げる必要があります。
人体で言えば、力が入っている状態が水の入ったペットボトルで、脱力した状態が水の入った袋ということになります。
人の身体の約6〜7割が水分で、表面は皮膚に覆われています。
皮膚はペットボトルの表面よりもビニール袋に性質が似ています。
ですが、筋肉は固めることもできれば、緩ますこともできます。
緊張して力が入っている状態は、筋肉によって表面が固くなり、ペットボトルの表面のようになります。
この理由は、筋肉の緊張に伴って、筋肉が収縮し、骨格が固定されてしまうからです。
さらに、皮膚と筋肉との間には筋膜というものがあり、筋肉が緊張することで筋膜が突っ張り、連動して皮膚も突っ張り固くなります。
なので、持ち上げようとする人は、しっかりと体を掴むことができ、持ち上げることができます。
それに対して、脱力した状態というのは、水の入ったビニール袋のようになります。
脱力していると筋肉が弛緩しているので骨格が固定されません。
筋肉が弛緩することで、筋膜も弛緩し、皮膚も緩みます。
なので、持ち上げようとしても体をしっかり掴むことができず、持ち上げることができません。
緊張した人よりも脱力した人の方が身体が重く感じるのは、そのためです。
これが「持ち上がらない身体」というのパフォーマンスの正体だったのです。