武術系の人達が、脱力技法を用いた身体操作法を披露したり、教えたりしています。
このような脱力系身体操作法を実際の動作に反映させることは困難だと考えます。
結論から言うと、人体の構造に適していないためです。
人は、何かを行おうとすると、すぐに筋肉を動かせるように脳から筋肉に電気信号が流れます。
これが、緊張状態です。
特に、筋肉への電気信号が送られているのに、動かずにその場に留まらなければならない時には、主動作筋と拮抗筋が同時に働きやすくなります。
これは俗に言う「力み」です。
例えば、「人から持ち上げられないようにしよう」と思った時点で、筋肉に力が入りやすいように脳から筋肉に電気信号が流れます。
どのような行動であれ、動かしやすいように電気信号を流し、待機状態にしようとします。
例え「脱力しよう」としたとしても。
そう、「脱力しよう」という行動を起こそうとした時点で、体に力が入りやすい状態を作ってしまうのです。
このように、意図的な「脱力」は人間の身体のシステムに合っていません。
もし、意図的に脱力をしようとするのであれば、無意識に発動する脳からの電気信号を遮断する命令を出す必要があります。
そうすると、意識が自身の身体に留まります。
「持ち上がらない体」のようなパフォーマンスであれば、それでも問題はありません。
ですが、このようなパフォーマンスは武術においては非合理的です。
なぜならば、実際の場面で相手に体を捕まれてしまった場合、意識が身体に留まることは危険だからです。
例えば、つかんだ相手は、
- 自身を動かして投げよう
とするのであれば、身体に意識を向ける脱力でも問題ないかもしれません。
しかし、つかんだまま攻撃されたらどうでしょう。
対応できません。
そして、複数人いたとすれば、どうでしょう。
相手につかまれた時点で絶体絶命です。
なので、身体に意識を向けて意図的に脱力する方法は、パフォーマンスとしてのみ成立するものです。
実際の場面で意図的に脱力を行う身体操作法が役に立たないのは、そのためです。
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しかし、脱力することが身体機能を高めることには事実です。
なので、脱力することは大切です。
ですが、意図的に脱力しようとしても、実際の動作に反映させられません。
では、どのようにすれば実際の動作で脱力することができるのでしょう?
それは、脱力体を作ることです。
具体的に言えば、脱力するための動作を習慣化することです。
この基本となるのが、
- 立つ
ことです。
「脱力して立ち続ける」と言う動作を行えるように脳に指令を出します。
こうして、脱力した状態を認識し、洗練させ、脱力した状態を脳に刻んでいきます。
そうすれば、実際の場面に遭遇した時も、咄嗟に脱力することができるようになります。
これは、実際の場面に遭遇し、実際の動作を行う時に脱力するのではありません。
実際の場面に遭遇した時には、すでに脱力できるようにしておくことを意味します。