前回の記事「前職の新人教育での経験談②「マッサージと指圧の指導①」の続きです。
私は、専門学校の3年の時、浪越徳次郎氏の内弟子であった古参の先生から指圧の実技を教えてもらえる機会を得ることができた。
この先生の教えは、それまで習っていたものとは大きく異なっていた。
どのように異なっていたのかと言うと、形を教えないのだ。
「感覚」を教えるのだった。
一年を通してあった授業の約3分の2がうつ伏せの指圧法の繰り返しだった。
それが基本であると。
実技を行い、先生が回ってきても形を細かく教えることはしない。
その他の先生方は、形を教えてくれる。
その先生は、
「ちょっと待て」
と言い、私の足の位置を修正して
「押してごらん」
と言い押さえると、あら不思議
圧がスーと入るではないか!
すかさず先生が、
「この感覚を覚えておきなさい」
と言い、他の人も同じように指導してゆく。
数ヶ月間もこのようなことを繰り返して行なっていった。
残り3分の1になろうとしてから横向き、仰向けなど他の指圧の手技を駆け足で教えてもらえた。
その指圧の手技も、他の先生が教えている手技とは異なる点があった。
先生曰く、
「昔は、私が教えた方法だったのだが、代が変わって手技が統一化されて変更された」
とのことだった。
さらに、
「本当は、一年生の時からみっちりと行って、他の箇所もみっちりと教えたかったんだが。」
とも言っていた。
この先生の指導によって得られた圧は、他の先生に教えてもらったものとは大きく異なった。
他の先生も当たりの柔らかい圧をもっとうにしたものではあったが、統一化された型では浸透する圧を出しにくい。
統一化された形は体重を乗せやすいが圧を浸透させることができないのだ。
具体的に述べると、統一化された形は、肘をピーンと伸ばして押さえる。
そうすると、腕で体重を支えやすくなるので初学者でも学びやすい。
それに対して、この先生の教える指圧はうつ伏せで背中を押させる時は肘を伸ばすが、それ以外の箇所の時には肘を適度に曲げることもある。
あと、統一化した型とは左右の指が異なる箇所もあったりする。
その当時から、ある程度、人の力の流れなどを読むことができたので、その先生が手本を見せていた時に「なぜ、通常の型の指で押さないのか」と言う説明に、理にかなっていることを理解することができた。
この先生は、指圧の3原則である垂直圧を教えたかったのだ。
スタンスを修正して「この感覚」と言ったのも、垂直圧で押す方法ではなく、垂直圧の感覚を教えたかったことに他ならない。
垂直圧の感覚を知ることで、その感覚に近づけるように心がけるようになる。
いくら形を教えても、感覚は身に付かない。
それに、施術者の体も違えば、患者の体も異なる。
であるので、決まりきった型では万人に対応することができないのだ。
私自身も「この感覚」を肌で感じることができたおかげで圧を浸透させる方法を見出すことができた。
「この感覚」が道標(みちしるべ)となってくれたのだ。
私自身が行う調整ための手技は、指圧とは大きく異なる。
指圧は上から下へ働く力を利用する。
この先生が教えてくれた指圧も例外ではない。
それに対して、私の手法は下から上へ働く力を利用する。
であるため、体重を乗せない。
だが、垂直圧は常に心がけている。
なぜ、垂直圧が必要なのか?
その理由は、筋肉の侵害刺激性反射を起こさないようにするためだ。
【参考記事】強刺激の問題点(侵害刺激反射による弊害)
強い刺激が与えられると体を守るため、筋肉を収縮させる。
これが、侵害刺激反射だ。
不意に熱いものに触れてしまうと「痛い」と感じる前に手を引っ込めるだろう。
脳に感覚が伝わるより先に体が勝手に動く。
これが「反射」と言う生理的現象であり、屈曲反射と言う侵害刺激反射の一つである。
このようにして、人は無自覚のうちに身が守られている。
体重を乗せる押し方をしてしまうと侵害刺激反射を引き起こしてしまい、筋肉が緊張してしまうのだ。
指圧などの手技療法は、筋肉の緊張を解いて副交感神経を優位に働かせ、生体の回復力すなわち自然治癒力を高めることが大きな目的である。
だが、手技によって侵害刺激反射を起こしてしまったら、どうだろう。
体の危険信号を引き起こす交感神経が優位に働き、さらに筋肉の緊張を高め、自然治癒力の要となる副交感神経の働きが悪くなってしまう。
特に、指圧は深層筋(インナーマッスル)の過緊張を緩和することに特化した手技であるため、侵害刺激反射による表層筋(アウターマッスル)の過緊張は施術の妨げとなる。
深層筋にアプローチできるようになるために、侵害刺激反射を起こさせないように圧を浸透させる必要があるのだ。
これが指圧の目的である。
その当時、足の位置を修正されただけで圧の質が変わることは驚きでした。
この先生は、指導の経験から押さえ方を見ただけで圧の質、圧の方向を瞬時に見抜き、修正することができたのだと思います。
これも、一種の空間意識®︎だと言えます。
この独特な指導を受けた経験は、脱力トレーニングのレッスンに活かされております。
次回の記事「前職の新人教育での経験談④」では、空間意識®︎を発見した時のことの思い出を書いていきたいと思います。