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前職の新人教育での経験談④「車椅子への移乗①(空間意識®︎の発見)」

私が空間意識®︎の存在に気がついたきっかけとなったのが、前職の新人教育での経験でした。

 

独立開業する1年前のことでした。

 

空間意識®︎の発見は、身体動作のアドバイス法を大きく見直したきっかけとのなりました。


新人教育も比較的スムーズに進んでいたが、その進行を滞らせたのが車椅子移乗の指導だった。

 

正直、アドバイスに一番苦慮した。

 

私は、小柄。

 

それに対して、新人さんは大柄な人。

 

私の培ってきた車椅子への移乗のノウハウをそのまま伝えることができないことを指導を通して痛感した。

 

その当時、介護などで基本とされていた車椅子移乗法がある。

 

それは、患者さんの両膝の間に介護者の脚を入れて抱え上げて移乗するというものだ。

 

この方法のメリットは、介護者の脚力を利用しやすいため女性の介護者でも移乗動作を行いやすいことである。

 

しかし、移乗の際に車椅子の両端のフットレストに患者の足が接触し怪我をさせるリスクが伴う。

 

さらに、患者さん自身の脚力を利用できないためリハビリを目的とした車椅子移乗には向かないなどのデメリットもある。

 

(近年では、介護の方でも身体機能の回復と介護度を下げるという目的に適した車椅子への移乗の方法へと変化しているようだ。)

 

このような理由から、リハビリでは足のスタンスを広げて腰を落とした状態で車椅子移乗を行う。

 

そうすれば、患者さんも足を動かしやすくなり「自らの力で移乗できるようになっていく」というリハビリの目的を果たすことが可能になる。

 

大柄な新人さんにとって従来の介護の移乗の方法も、リハビリで行う移乗の方法も「とても窮屈で行いにくい」とのこと。

 

確かに。

 

私は、比較的小柄で他のスタッフも同じぐらいの体型だったので、腰を落として患者さんを抱えることに苦慮することはない。

 

そのため、この方法以外のノウハウを持ち合わせていない。

 

車椅子への移乗だけではなく、腰を深く落として行うことは物を動かす動作の基本である。

さらに、

  • 対象物より自身の重心を低くする

ことができれば、楽に対象物を動かすことができ、身体機能的にも合理的で効率的だ。

 

しかし、体が大きと対象物よりも自身の重心を低くすることは困難である。

 

肉体労働を行っている人に小柄な人が多いのも、小柄な方が重心が低いためだろう。

 

ただ、大柄な方には力がある。

 

そして、患者さんからの安心感を得られやすい。

 

私のような小柄で線の細い人間は、初めは不安に思われてしまう。

 

もちろん、一度、移乗を行えば安心して身を委ねてもらえるのだが。

 

大柄な新人さんは、移乗に慣れていなくても患者さんに不安に思われることはなかった。

 

それは、車椅子への移乗にとっては大きなアドバンテージ(優位なこと)である。

 

実際に、ぎごちなくても大抵の患者さんの移乗はこなしていた。

 

それとは裏腹に、大柄な新人さんは不安でしょうがなく感じていた。

 

その理由に、車椅子への移乗の難易度が高い患者さんがおり、強い苦手意識を抱いていたためだ。

 

その患者さんは、高齢で円背が強く、背を伸ばすような姿勢になると痛みを訴えたり、伸びた状態から元の姿勢に戻ろうとする時に苦痛な表情をする。

 

力ずくで持ち上げようとすると背が伸びたような姿勢になってしまうのだ。

 

そのため、背が伸びないように片方の手で骨盤を支えながら移乗させていた。

 

そうするためには、深く腰を落とす必要がある。

 

だが、私のアドバイスもうまく飲み込めない。

 

それはそうだ。

 

体格が違い過ぎて、新人さんも私のアドバイス通りに体を動かせないし、私も新人さんの動作的な事情を汲み取ることができないからだ。

 

ただ、同じ動作なのだから必ず共通する認識を得られることがあるはずだ。

 

そのように考えながら、この難易度の高い患者さんの車椅子移乗を行っていた時に、あることに気がついた。

 

そう、それが空間意識®︎である。

 

車椅子へ移乗させる時にベットに対して約30度ぐらいの角度に車椅子を置く。

 

そうすると、スムーズに移乗することができる。

 

その際、30度分、体を回転させる必要がある。

 

私は、回転させる位置に意識を置いていたことに気がついたのだ。

 

この意識は、無意識であったため、それまで気がつくことはなかった。

 

これこそが、空間意識®︎である。

 

自身の動作に意識を向けて行った結果、このポイントに気がつくことができたのだと思う。

 

他の患者さんの移乗の際にも、このポイントに意識を向けるとスムーズに移乗できることが確認できた。

 

早速、新人さんに、

「ベットから車椅子へ移乗する時に、この位置で向きを変えます。」

続けて、

「なので、このを位置を架空(イメージ)の目印を置くとやりやすくなりますよ」

とだけ伝え、車椅子移乗をしてもらった。

 

そうしたら、今までぎごちなかった車椅子への移乗が、とてもスムーズになってはではないか!

 

これには、新人さんも驚いていた。

 

ただ、伝えたのは、方向転換を行うポイントだけ。

 

それだけで、動作の質が変わるのであるのだから。

 

正直、私自身も強く驚いた。

 

このことがきっかけで、車椅子移乗のレベルが急速に向上し、ベテランのスタッフと遜色のないぐらいにまでになり、難易度の高い患者さんの車椅子移乗も難なくこなせるようになっていた。

 

この出来事によって、「身体操作」などという体の使い方をこと細かく教えることの無意味さを知った。

 

これが、空間意識®︎の発見の大きなきっかけであった。


私自身、車椅子への移乗の方法を覚えることは、とても苦労しました。

病院に入職して一番の障壁となったのが車椅子への移乗でした。

それまで、多くの力仕事を経験し、足腰の力には自信がありましたが、患者さんの車椅子への移乗をうまく行うことができませんでした。

介護職や看護職、理学療法士の方などは、学校に在学する間に車椅子への移乗の仕方を学ぶ機会が多いのかもしれませんが、あんまマッサージ指圧師の学校ではリハビリの座学はあっても実習を経験することがありません。

この新人さんも鍼灸マッサージの学校だったため、私と同様だったと思います。

ただ、私が入職した頃は比較的介護度の低い人が多く、新人さんが入職した当時よりも難易度の高い人はいませんでした。

そのこともあって、私は特段、教えてもらえることもなく実践を繰り返すうちにコツを掴んでいきました。

巷では、「身体操作でパフォーマンスが上がる」と掲げている人もいます。

確かに、体の使い方を覚えることは大切なことです。

ただ、それはあくまでも、はじめて行う動作を覚える段階だけです。

車椅子へ移乗のように、日常生活で使われている動作と類似する動作であれば、特別な身体操作など必要としません。

ただ、その動きの動線と方向転換を行うポイントが大きく異なります。

それさえ踏まえることができれば、容易にできるようになります。

それが、無意識のうちに掴んだコツ「空間意識®︎」だったと思います。