武術が予備動作を嫌う訳

「瞬間動作」とは脱力クリエイトが提案する、動き始める時の予備動作をなくして相手に予測されにくくするフットワーク法のことです。

 

例えば、長年、野球のメジャーリーグで活躍していた走攻守に優れた日本人選手は、足が速く、多くの盗塁も成功させています。

 

この選手よりも足の早い選手も多い中、40才を過ぎても盗塁を成功させています。

 

その秘訣は、上体を大きく動かさずに走り始めることだそうです。

 

通常、走り始めようとする時に、上体を持ち上げた反動で腰を落とそうとします。

 

そうすることで、地面の床反力が強く働き推進力が高まります。

 

ですが、このように動いてしまうと、

  • 上体を上げる
  • 上体を落とす
  • 脚を前に出す

の3つ動作を行わなければならず、タイムロスになる上にキャッチャーに走塁がバレやすく刺されやすくなるため、このベテランの日本人メジャーリーガーは、ほとんど上体を動かさずに足を前に出すだけの予備動作の少ない走塁を行うことでキャッチャーに盗塁を予測させずに盗塁を成功させていたのです。

 

また、サッカーでも欧州や南米の超一流の選手なども予備動作のないパスを行なったり、低重心で素早いドリブルを行なっています。

 

このように超一流のスポーツ選手は、膝を曲げた低い重心で素早く動くコツを体得しています。

予備動作のデメリット

多くの人は、意識して大きな力を出したい時、早く動きたい時、力をためようとします。

 

特にスポーツなどでは、相手よりも速く、そして力強いことを要求されるため、常に膝を曲げて腰を落とす姿勢を強要されます。

 

ですが、腰を落とすと足を前に出すことが困難です。

 

ですので、前に進もうとする時には後ろへ、右へ進もうとする時には左へ、といった具合に、進行方向と逆の方向の脚に体重を移動させたり、上に飛び上がることで脚にかかる荷重を減らして前に出す足を浮かして(抜重)、次に落下することで支えている側の脚に加重を集中させ、床反力と筋肉のバネによる反動を利用して推進力を高めようとすることで大きな力を得ようとします。

 

これが、予備動作を行う大きな理由です。

 

このことで、強い推進力を得ることができ、速く進むことができます。

 

力をためる予備動作を行うことで速く動くことができますが、その反面、予備動作を行う分、動くタイミングが遅くなってしまうため相手に予測されやすくなるデメリットがあります。

 

スポーツを行う上で大切なことは、自分に最適なポジションをキープすることです。

 

そのための足が必要です。

 

いくら足が速くても予測が遅かったり、前に出るタイミングが遅ければ意味がありません。

 

特に、予備動作を必要としないハイレベルの人に対しては、予備動作があることで遅れを取ったり、安易に動きが読まれてしまいます。

 

そうすれば、良いポジションをキープすることができません。

 

ですので、一歩前に出る予備動作を無くすことが大切になります。

 

では、どのようにして、予備動作をなくすのか?

予備動作を嫌う武術

予備動作をなくす動きは一握りの天才のみが可能な動作に思われるかもしれません。

 

実は、本来、人の持っている身体動作のシステムであり、日常生活で無意識下では誰もが行なっているのです。

 

予備動作のない動作の身体のシステムを意識化しているのが武術です。

 

武術では、力をためる時に一瞬体が止まってしまうような動きのことを「居つく」といい忌み嫌います。

 

なぜならば、相手が刀やナイフを持って襲いかかってきたら力をためている間に切られたり刺されてしまうからです。

 

居つかないようにするための技法が、武術でいう「浮身」であり、「沈身」であります。

 

浮身とは浮く感覚がする身体のことで、骨の垂直抗力を有効に使って体を支えられている時に生じる下から上に持ち上がる感覚です。

 

それに対して沈身とは、重く沈む感覚がする身体のことで、脱力した時に感じる上から下に引っ張られる地球の引力の感覚です。

 

これらの感覚は相反するものではなく、沈身ができなければ浮身はできず、浮身ができなければ沈身もできません。

 

なぜならば、下から上に働く骨の垂直抗力は、地面に引っ張られる地球の引力(重力)に対する反発する力だからです。

 

しかし現在では、これらの技法は、むしろスポーツに強く求められています。

 

現に、トップアスリートの動作を見ていると、無駄な予備動作なく切れ目のない動きをしていることが多いです。

 

特に、コンタクトスポーツなどでは無駄な予備動作を行なっていると、進路を妨害されたり、ボールを奪われてしまうからです。

瞬間動作の意義

ですが、残念なことに、武術においても居つかない動作についての概念はあっても具体的な方法について伝えられていないようです。

 

そのため、膝を曲げた状態で予備動作なしで動くことは容易ではありません。

 

なぜかと言いますと、腰を落とすと脚に大きな力がかかるため脚への意識が強くなるからです。

 

私には武術の経験がありませんが、脱力調整法「大田式調整動作®︎」を構築する過程で私自身の身体のバランスが整うようになり、天と地と身体とをつなぐ軸(骨の垂直抗力)を感じられるようになりました。

 

この軸を感じられるようになってから、「浮身」と「沈身」を体感することができるようになり、低重心でありながら予備動作を必要としない「居つかない」動作を身につけることができました。(完全ではありませんが)

 

そこで、居つかない動作を行うためのシステムが身体に備わっていることに気がついたのです。

 

多くの人は、足を出そうとする時、足を動かそうとします。

 

そうなると、どうしても予備動作が必要になります。

 

そこで、重要になるのが股関節です。

 

体幹部に近い股関節を軸に脚を動かすことができるようになれば、たとえ腰を落とした状態であっても不自由なく脚を動かすことができます。

 

なぜかと言いますと、股関節の間にある重心をコントロールすることができるからです。

 

そうすれば、上体を大きく動かして重心を移動させる必要がなくなるため相手にモーションを盗まれにくくなります。

 

股関節の動きを意識化することで、意図的にに居つかない動作ができるようになります。

 

ただ、武術においても居つかない動作について、決まった言葉がありません。

 

そこで、脱力クリエイトでは、意図的に居つかない(予備動作の必要としない)動作を行うことを「瞬間動作」と呼ぶことにしました。

 

瞬間動作を行うために必要なのが脱力トレーニングなのです。