- 高音域の声を出せるようになりたい
このような悩みを解決するために、ボイストレーニングを受けている人もいるかもしれません。
特にプロの男性シンガーの曲は高音域が多く、カラオケで歌うのは難しいです。
なので、高音域の声がだせるようになれば歌える歌が増えて歌を歌うことが楽しみになります。
高音域の声のことをボイストレーニングではミックスボイスといいます。
輪状甲状筋とは、声帯を伸ばす働きをする首の中にあるインナーマッスルで、音程をコントロールしている筋肉で、強く働くことで声帯が伸されて高い声を出すことが出ます。
あまり歌う機会のない一般の人が高い声を出せないのは、この輪状甲状筋が上手く働かないからだと言われています。
このことからボイストレーニングでは、ミックスボイスを出すために必要な輪状甲状筋を鍛えることを重要視しています。
カラオケが上手くなりたいだけであれば、輪状甲状筋を鍛えるボイストレーニングもいいかもしれません。
ですが、
「歌手になりたい」
と思っているのであれば、ボイストレーニングを受けることはお勧めしません。
なぜかと言いますと、ボイトレで鍛えられた声をプロのスカウトは敬遠するからです。
今から15年ほど前、あるきっかけで、歌手のスカウトをしている人と知り合いになり、その方が
「ボイトレを受けている人はスカウトされない」
と言っていました。
「なぜなのですか?」
と聞くと
「個性がないから」
という答えでした。
さらに、元々音楽のプロヂューサーをしていた人の動画サイトでも
「ボイトレをしてもスカウトされない。」
「元から上手い人をスカウトする」
と言っていました。
輪状甲状筋を鍛えることをすすめない訳
私自身、ボイストレーナーでははありませんが、歌は好きなのでボイストレーニングの動作サイトを見たりもします。
それらのトレーニングを実践するということよりも「どのような指導をしているのだろう?」ということに興味があるからです。
それらの動画を見てわかることは、腹式呼吸で発声することを前提にしていることです。
中には腹式呼吸を否定しているサイトもありますが、少数派です。
私自身、意図的に行う腹式呼吸は否定しています。
なぜならば、発声はもちろん、健康面など、さまざまな問題点があるからです。
このことについては、他の記事でも書いていますので、ここでは割愛させていただきます。
【関連記事】腹式呼吸という幻想(腹式呼吸と逆腹式呼吸)
あと、ボイストレーニングのサイトでよく見かけるのが「ミックスボイス」です。
諸説あるようですが、いくつかのボイトレの動画サイトを見ていると「地声では出せない高音域を出すための発声法」で「地声と裏声のミックスされた声」という認識のようです。
それだけ「高い声が出ない」と悩んでいる人が多いのだと思います。
いくつかのボイトレ動画では、声帯の構造が述べられており、この時に良く聞かれるのが「甲状披裂筋」と「輪状甲状筋」です。
- 中低音域の声を出す時には、「甲状披裂筋」
- 高音域の声を出そうとすると「輪状甲状筋」
が重要になります。
輪状甲状筋とは、声帯を引き伸ばして高い声を出すための筋肉です。
輪状甲状筋を収縮させると甲状軟骨が傾き、声帯が引き伸ばされます。
このことで、声帯の張りが強くなって声帯が細くなり、高い声が出るようになります。
このような理由から「輪状甲状筋を鍛ましょう」とボイトレでは言われます。
歌を仕事にしないカラオケプレーヤーでしたら、四六時中、歌を歌うわけではないので、輪状甲状筋を鍛えがほうがいいかもしれません。
ですが、歌を仕事にする人は、このことを真に受けると大変なことになります。
プロの歌手の中に、昔は澄んだ高音域が出ていたのに出なくなった歌い手さんが多くいます。
今は、動画サイトでビフォーアフターを聞くことのできる時代なので、このような歌手の声のビフォアーアフターを聞いてみると、そのような歌い手さんは、高音域を出せていた頃から輪状甲状筋を過度に使って声帯周りの筋肉を引き伸ばして高音域を出す歌い方をしています。
その結果、高音域が出にくくなってしまいます。
何故、そのようになってしまうのか?
と言いますと、 筋肉には「伸びたら縮む」というやっかいな性質があるからです。
輪状甲状筋によって声帯を必要以上に伸ばして続けるてしまうと、声帯のまわりに着く筋肉が伸張反射を起こしてしまい声帯を伸ばそうとすればするほど声帯の筋肉の収縮が強くなります。
特にプロの歌い手のように、歌う頻度が高く、ハイパフォーマンスを求められる状況下に置かれると声帯の筋肉に想像を絶する負荷がかかります。
輪状甲状筋を過剰に使い声帯の周りの筋肉を引き伸ばすことを繰り返してしまうと、声帯まわりの筋肉(甲状披裂筋)が伸展しにくくなります。
このようなことを繰り返すうちに、声帯の周りの筋肉の弾力がなくなり、声帯が伸びなくなり高音域が出なくなってしまうのです。
これは、甲状披裂筋の伸展反射(筋肉が伸びされて傷つかないように縮める反射)によって声帯が伸ばされるのを防いでいるからです。
ボイトレのサイトで言われているような輪状甲状筋を過度に緊張させる歌い方をおすすめしないのは、そのためです。
高音域の声を出すためには
高音域を出せない人にとっては、高音域を出すことがすべてのように思っているかもしれません。
たしかに、高音域がだすことができれば歌の幅は広がるでしょう。
ただ、それはあくまでも中低音域がしっかりとしていることが前提です。
ですが、悲観することはありません。
高音域を広げることはそれほど難しくはないからです。
むしろ低音域の声を出すことのほうが遥かに難しいことです。
高音域を出すコツは「力まない」ことです。
リラックスすれば、簡単に出せるようになります。
では、リラックスとは?
高い声は輪状甲状筋によって甲状軟骨が前に傾くことで声帯が引き伸ばされるからです。
なので、輪状甲状筋を鍛えれればいい!
というほど人の体が単純ではありません。
筋トレなどでも同じような傾向がありますが、筋肉を鍛えさえすればパフォーマンスが上がるという短絡的な考えです。
パフォーマンスを上げたいのであれば、筋肉を鍛えることよりも先に関節の動きを良くすることが大切です。
関節の動きを良くするためには、骨のアライメント(位置)を調整する必要があります。
この場合ですと、甲状軟骨を前に傾きやすい位置を見つけることです。
極端な例をあげると、首を大きく捻った状態で声をうまく出すことができないでしょう。
これは、首を捻ることで気管が圧迫され、発声に必要な甲状軟骨の動きが制限されるからです。
人は多かれ少なかれ歪みがありますが、このように歪みが強い状態だと関節が制限されてしまいます。
そこで、歪みの少ない状態を作る必要があります。
そうすれば、甲状軟骨の動きが良くなります。
姿勢が大切と言われるのは、そのためです。
姿勢を調整するだけで、高音域を出すこともできるようになります。
ですが、もしプロの歌手を目指すのであれば、それだけでは不十分です。
個性豊かな倍音を生むダブル共鳴
なぜならば、高音域重視の声は、非個性的な声になってしまうからです。
もしアマチュアの男性ボーカルであれば高音域を出せる人が少ないので個性と捉えられます。
ですが、プロで活躍している歌手のほとんどが難なく高音域を出しています。
なので、スカウトに耳に留まりませんし、プロとしては誰からも注目されません。
きれいな声の人は、はじめは聞いてくれても、すぐに飽きられてしまいます。
我々は声の美しさよりも、心の残る声を求めています。
そのためには、声の表現を豊かにすること。
しかし、ボイストレーニングの方法では、万人受けする上手さを重要視するため、どうしても非個性的な声になってしまいます。
高音域の声は「声に変化をつけずらい」ので個性を作り出すことができません。
この理由は、輪状甲状筋の過緊張させるからです。
輪状甲状筋を強く緊張させると地声を作る甲状披裂筋を伸ばす必要があります。
甲状披裂筋をコントロールすることで声質(厚さ、ビブラートなど)を変えているのです。
そうなると、甲状披裂筋をコントロールすることができなくなります。
これが、高音域重視の人の陥る「非個性な声」なのです。
では、どうしたら表現を豊かに高音域を出すことができるのか?
そもそも、声は喉だけで作るものではなく、口の中で顎と舌を連動指させて作るものです。
なので、声帯だけで高い音を作ろうと頑張る必要はありません。
輪状甲状筋は、ただ基音の音程だけをコントロールするためだけに使われればいいのです。
なので、輪状甲状筋を必要以上に鍛える必要などありません。
声帯では、声の基になる音(音程、声質、振動)を作ります。
その基音を顎と舌を使って複雑な音が作られます。
口で作った声を共鳴させて増幅しているのが鼻腔と胸郭のダブル共鳴です。
その中の低い音(基音)は胸郭で共鳴し、高い音(倍音)は鼻腔で共鳴します。
ダブル共鳴が起こることで倍音が多くなり、個性的で魅力的な声を醸し出すことができます。
鼻腔と胸郭のダブル共鳴こそが、個性的で表現豊かな声を作る大きな要素となるのです。